怜くんの視線は、いつも私を追っている。
教室でも。
廊下でも。
少し離れていても。
最初は、それが嬉しかった。
見てくれてる。
気にかけてくれてる。
――愛されてる。
放課後、私は一人で帰ろうとした。
ほんの少しだけ、
怜くんがいない時間を作りたくなっただけ。
でも。
校門を出た瞬間、後ろから声がした。
「依音」
振り向くと、怜くんが立っていた。
息一つ乱れていない。
まるで、ずっとそこにいたみたいに。
「……どうして?」
聞くと、怜くんは不思議そうに首を傾げた。
「一緒に帰るって言ってたよね?」
責める口調じゃない。
事実を確認するだけの声。
「私、今日は――」
言い終わる前に、距離が詰められた。
「不安になった」
低く、静かな声。
「依音が視界から消えると、嫌な想像する」
手首を取られる。
強くはない。
でも、逃げられない。
「誰かに連れて行かれるとか」
「俺を置いていくとか」
耳元で囁かれて、背中がぞくりとした。
「そんなの、耐えられない」
……それって。
「ごめん……」
反射的に謝っていた。
怜くんは、ほっとしたように微笑む。
「いいよ」
そのまま、指を絡めてくる。
「ちゃんと謝れるの、偉い」
胸が、じんわり温かくなる。
「依音は、俺のそばにいれば安心でしょ?」
「うん……」
答えた瞬間、
怜くんの目が、確かに満足そうに細まった。
帰り道。
「今日、誰と話した?」
「……友達と、少し」
嘘じゃない。
でも、怜くんは立ち止まった。
「名前」
短い言葉。
「え……?」
「覚えなくていい人なら、もう話さなくていい」
優しい声なのに、拒否は許されていない。
「依音が不安になる原因、減らしたいだけ」
そう言って、頭を撫でる。
「俺が全部になるから」
――全部。
「依音は、考えなくていい」
「選ばなくていい」
視線が絡む。
「俺が決める」
その言葉で、
胸の奥がすっと静かになった。
考えなくていい。
悩まなくていい。
怜くんが、全部やってくれる。
家に帰っても、メッセージは続く。
『鍵、ちゃんとかけた?』
『カーテン閉めて』
『今、部屋に一人だよね』
一つずつ答えるたびに、
安心していく自分がいる。
『いい子』
その二文字で、心が満たされた。
――これが、幸せ。
スマホを胸に抱いて、目を閉じる。
自由は、もう欲しくなかった。
怜くんが見てくれる世界だけで、
私は、ちゃんと満たされていた。
それ以外は――
全部、いらない。
教室でも。
廊下でも。
少し離れていても。
最初は、それが嬉しかった。
見てくれてる。
気にかけてくれてる。
――愛されてる。
放課後、私は一人で帰ろうとした。
ほんの少しだけ、
怜くんがいない時間を作りたくなっただけ。
でも。
校門を出た瞬間、後ろから声がした。
「依音」
振り向くと、怜くんが立っていた。
息一つ乱れていない。
まるで、ずっとそこにいたみたいに。
「……どうして?」
聞くと、怜くんは不思議そうに首を傾げた。
「一緒に帰るって言ってたよね?」
責める口調じゃない。
事実を確認するだけの声。
「私、今日は――」
言い終わる前に、距離が詰められた。
「不安になった」
低く、静かな声。
「依音が視界から消えると、嫌な想像する」
手首を取られる。
強くはない。
でも、逃げられない。
「誰かに連れて行かれるとか」
「俺を置いていくとか」
耳元で囁かれて、背中がぞくりとした。
「そんなの、耐えられない」
……それって。
「ごめん……」
反射的に謝っていた。
怜くんは、ほっとしたように微笑む。
「いいよ」
そのまま、指を絡めてくる。
「ちゃんと謝れるの、偉い」
胸が、じんわり温かくなる。
「依音は、俺のそばにいれば安心でしょ?」
「うん……」
答えた瞬間、
怜くんの目が、確かに満足そうに細まった。
帰り道。
「今日、誰と話した?」
「……友達と、少し」
嘘じゃない。
でも、怜くんは立ち止まった。
「名前」
短い言葉。
「え……?」
「覚えなくていい人なら、もう話さなくていい」
優しい声なのに、拒否は許されていない。
「依音が不安になる原因、減らしたいだけ」
そう言って、頭を撫でる。
「俺が全部になるから」
――全部。
「依音は、考えなくていい」
「選ばなくていい」
視線が絡む。
「俺が決める」
その言葉で、
胸の奥がすっと静かになった。
考えなくていい。
悩まなくていい。
怜くんが、全部やってくれる。
家に帰っても、メッセージは続く。
『鍵、ちゃんとかけた?』
『カーテン閉めて』
『今、部屋に一人だよね』
一つずつ答えるたびに、
安心していく自分がいる。
『いい子』
その二文字で、心が満たされた。
――これが、幸せ。
スマホを胸に抱いて、目を閉じる。
自由は、もう欲しくなかった。
怜くんが見てくれる世界だけで、
私は、ちゃんと満たされていた。
それ以外は――
全部、いらない。
