メンヘラちゃんとヤンデレくん!?

校舎裏から出ようとした、その時。
「……依音?」
背筋が凍る。
聞き覚えのある声。
忘れたはずの、思い出したくない音。
「久しぶり」
そこに立っていたのは、
依音の――元恋人だった。
「なんで……ここに」
「会いたかったからに決まってるだろ」
距離を詰められ、息が詰まる。
「連絡つかなくなってさ。
 でも、やっぱ依音は俺じゃないと――」
言葉が終わる前に、
ぐっと体が引かれた。
怜の腕が、強く依音を抱き寄せる。
「離れて」
静かで、低い声。
元恋人が怜を見る。
「誰だよ」
「依音の恋人」
即答。
迷いも、感情の揺れもない。
「今も、これからも」
怜は依音の肩に顎を乗せ、
自分の存在を誇示するみたいに抱きしめた。
「まだ分からない?」
元恋人に向けた視線は、冷たい。
「依音は、もう他人に触らせない」
「は? でも依音は――」
「名前を呼ぶな」
声が、ぴしりと空気を裂く。
「気安く」
元恋人が一歩踏み出した瞬間、
怜の手が、依音の目を塞いだ。
「見なくていい」
耳元で囁く。
「こんなの、思い出す価値もない」
それから、元恋人を見る。
笑顔だった。
でも、その目はまったく笑っていない。
「忠告」
「今ここで帰れば、何もしない」
「でも」
一拍置く。
「次、依音の前に現れたら」
声が低く沈む。
「“偶然”じゃ済ませない」
何をするかは言わない。
でも、確信だけがあった。
元恋人は舌打ちし、
荒く去っていった。
足音が消えても、
怜は依音を離さない。
むしろ、強く抱きしめる。
「……怜くん」
「大丈夫」
即答。
「俺が全部、処理する」
依音の頬を両手で包み、
無理やり視線を合わせる。
「怖かった?」
「……うん」
正直に答えると、
怜は安心したように微笑んだ。
「よかった」
「え……?」
「俺を呼んでくれた顔、してたから」
指が、依音の手首に絡む。
「依音はさ」
「こういう時、俺がいないと壊れるでしょ」
胸が、ぎゅっと締め付けられる。
否定できない。
「だから」
額を寄せて、囁く。
「俺が全部、管理する」
「人も、記憶も、距離も」
「依音が苦しまないように」
――でも、本音は。
「俺が不安にならないように」
依音の指が、怜の制服を掴む。
「……怜くんがいないほうが、怖い」
その一言で、
怜の目が、完全に満たされた色になる。
「うん」
「それでいい」
ぎゅっと、逃げ道を塞ぐように抱きしめて。
「依音は、俺の中で生きてればいい」
夕焼けは沈み、
校舎裏には二人だけ。
この瞬間、
“守る”は“閉じ込める”に変わった。