メンヘラちゃんとヤンデレくん!?

朝、依音は目を覚ました瞬間に、不安になった。
隣に怜がいない。
胸がざわついて、心臓が早鐘を打つ。
まだカーテン越しの光が弱いのに、
頭の中だけが騒がしい。
――置いていかれた?
すぐにスマホを掴む。
通知は、一件。
『おはよう。起きてると思って』
その一文だけで、息が戻る。
……いる。
ちゃんと、いる。
依音は布団の中で、何度もそのメッセージを読み返した。
返信する前に、怜からもう一通。
『今日は迎えに行くよ』
『一人で外出ると、まだ不安でしょ』
図星だった。
依音は、しばらく迷ってから返す。
『……うん』
それで、安心した。
学校。
昇降口で怜の姿を見つけた瞬間、
依音は無意識に駆け寄っていた。
「怜くん……」
怜は、その様子を見て、静かに微笑む。
「ちゃんと来たね」
その言い方は、
“迎えに行く”よりも
“回収する”に近かった。
教室でも、距離は近い。
誰かが依音に話しかけようとすると、
怜が自然に間に入る。
「依音、次の授業のプリント確認しよ」
それだけで、相手は引き下がる。
依音は、何も言わない。
言わなくても、怜がやってくれる。
昼休み。
依音は、ふと気づいた。
今日は、誰とも話していない。
でも、不安はない。
むしろ、頭の中が静かだった。
「ねえ、怜くん」
「私、変かな」
怜は、即座に首を振る。
「変じゃない」
「やっと、落ち着いただけ」
そう言って、依音の指に自分の指を絡める。
「ほら」
「ちゃんと、俺がいるでしょ」
その言葉で、全部が納得できてしまう。
放課後。
依音は、怜の隣を歩きながら、小さく言った。
「……怜くんといると、世界が狭くなる感じがする」
一瞬、怜の歩みが止まる。
でも、すぐに柔らかく笑った。
「それでいいんだよ」
「広い世界は、依音を傷つける」
「必要なのは、俺と」
一拍置いて、続ける。
「安全な範囲だけ」
依音は、少しだけ考えてから頷いた。
「……うん」
その答えに、怜の目がわずかに細くなる。
夜。
怜は、依音からの「おやすみ」を確認してから、
スマホを伏せた。
もう、依音は自分のいない時間に耐えられない。
それでいい。
依音が依存している、という認識はない。
怜の中では、最適化だ。
不安を取り除くために、
世界を削っただけ。
「次は……」
怜は、窓の外を見る。
「完全に、俺の中に入れてあげないと」
境界線は、もう意味をなさない。
依音の世界と、怜の世界は、
とっくに重なっている。
あとは、閉じるだけだ。