依音の呼吸は、まだ不安定だった。
胸を押さえ、何度も息を吸おうとしているのに、
空気がうまく入ってこない。
怜は、そんな依音を逃がさない位置で抱き寄せた。
抱きしめる、よりも
“包む”に近い。
「いいよ」
低く、静かな声。
「無理に落ち着かなくていい」
「今は、俺の中で呼吸して」
意味の分からない言葉なのに、
依音の身体は、少しずつ従ってしまう。
怜の胸に耳を当てると、
一定の心音が聞こえた。
それに合わせるみたいに、
依音の呼吸も、ゆっくりになる。
「……昔のこと、思い出した……」
掠れた声。
「また、捨てられるって……」
怜は、ぴたりと動きを止めた。
捨てる。
その言葉が、怜の中で“禁忌”として確定する。
「それは」
一拍置いてから、言う。
「ありえない」
完全な否定。
「だって、依音は俺のものだから」
言い切りだった。
依音の肩が、びくっと揺れる。
「……もの……?」
怜は、優しく言い直す。
「大切な存在って意味」
「他の人には、分からなかっただけ」
都合のいい修正。
でも、撤回はしない。
「依音はね」
「誰かに委ねないと、壊れる」
「でも、委ねる相手を間違えると、傷つく」
怜は、依音の顎に指を添え、顔を上げさせる。
視界に入るのは、怜だけ。
「だから、俺がいい」
選択肢は一つ。
「俺なら、逃げない」
「依音がどんなに不安定でも」
「重くても」
「全部、管理できる」
その言葉に、依音の目から涙が溢れる。
「……管理、って……」
怜は、笑った。
優しく。
でも、目は笑っていない。
「守るってことだよ」
「危ないものから遠ざけて」
「余計な刺激を遮断して」
「安心だけを与える」
依音の背中を、少し強めに引き寄せる。
「依音は、考えなくていい」
「思い出して苦しくなる必要もない」
「全部、俺が処理する」
処理。
その単語が、ひどく冷たかった。
でも、依音は否定できない。
今、こうして怜に抱かれている間だけは、
頭の中が静かだから。
「……怜くんがいないと……」
震える声。
怜は、待っていたように囁く。
「いないと、壊れる」
続きを、勝手に補完する。
「だから、俺は常にそばにいる」
「離れる状況を、作らない」
それは、約束じゃない。
計画だ。
怜は、依音の髪に顔を埋める。
「怖い記憶も」
「依音を傷つけた人も」
「全部、俺の中で終わらせる」
依音は、怜の服を強く握った。
逃げたいのか、
離れたくないのか、
もう分からない。
でも、口から出たのは一言だった。
「……怜くん……」
それだけで、怜は満足した。
名前を呼ばれる限り、
依音は自分の世界にいる。
「大丈夫」
最後に、念を押すように言う。
「依音は、俺から逃げられない」
「でも、それでいいでしょ?」
問いかけの形。
でも、答えは求めていない。
依音は、怜の胸に顔を埋めたまま、
小さく頷いた。
その瞬間。
怜の中で、
“守る”という言葉は、完全に意味を変えた。
壊れる前に、閉じ込める。
傷つく前に、奪う。
それが、一番優しい。
怜は、そう信じて疑わなかった。
胸を押さえ、何度も息を吸おうとしているのに、
空気がうまく入ってこない。
怜は、そんな依音を逃がさない位置で抱き寄せた。
抱きしめる、よりも
“包む”に近い。
「いいよ」
低く、静かな声。
「無理に落ち着かなくていい」
「今は、俺の中で呼吸して」
意味の分からない言葉なのに、
依音の身体は、少しずつ従ってしまう。
怜の胸に耳を当てると、
一定の心音が聞こえた。
それに合わせるみたいに、
依音の呼吸も、ゆっくりになる。
「……昔のこと、思い出した……」
掠れた声。
「また、捨てられるって……」
怜は、ぴたりと動きを止めた。
捨てる。
その言葉が、怜の中で“禁忌”として確定する。
「それは」
一拍置いてから、言う。
「ありえない」
完全な否定。
「だって、依音は俺のものだから」
言い切りだった。
依音の肩が、びくっと揺れる。
「……もの……?」
怜は、優しく言い直す。
「大切な存在って意味」
「他の人には、分からなかっただけ」
都合のいい修正。
でも、撤回はしない。
「依音はね」
「誰かに委ねないと、壊れる」
「でも、委ねる相手を間違えると、傷つく」
怜は、依音の顎に指を添え、顔を上げさせる。
視界に入るのは、怜だけ。
「だから、俺がいい」
選択肢は一つ。
「俺なら、逃げない」
「依音がどんなに不安定でも」
「重くても」
「全部、管理できる」
その言葉に、依音の目から涙が溢れる。
「……管理、って……」
怜は、笑った。
優しく。
でも、目は笑っていない。
「守るってことだよ」
「危ないものから遠ざけて」
「余計な刺激を遮断して」
「安心だけを与える」
依音の背中を、少し強めに引き寄せる。
「依音は、考えなくていい」
「思い出して苦しくなる必要もない」
「全部、俺が処理する」
処理。
その単語が、ひどく冷たかった。
でも、依音は否定できない。
今、こうして怜に抱かれている間だけは、
頭の中が静かだから。
「……怜くんがいないと……」
震える声。
怜は、待っていたように囁く。
「いないと、壊れる」
続きを、勝手に補完する。
「だから、俺は常にそばにいる」
「離れる状況を、作らない」
それは、約束じゃない。
計画だ。
怜は、依音の髪に顔を埋める。
「怖い記憶も」
「依音を傷つけた人も」
「全部、俺の中で終わらせる」
依音は、怜の服を強く握った。
逃げたいのか、
離れたくないのか、
もう分からない。
でも、口から出たのは一言だった。
「……怜くん……」
それだけで、怜は満足した。
名前を呼ばれる限り、
依音は自分の世界にいる。
「大丈夫」
最後に、念を押すように言う。
「依音は、俺から逃げられない」
「でも、それでいいでしょ?」
問いかけの形。
でも、答えは求めていない。
依音は、怜の胸に顔を埋めたまま、
小さく頷いた。
その瞬間。
怜の中で、
“守る”という言葉は、完全に意味を変えた。
壊れる前に、閉じ込める。
傷つく前に、奪う。
それが、一番優しい。
怜は、そう信じて疑わなかった。
