怜は、依音の隣が定位置になっていた。
教室でも、帰り道でも、
気づけばそこにいる。
最初は偶然。
次は自然。
今は――当然。
「怜くん」
名前を呼ばれる回数が増えた。
それは、依音の不安が減った証拠でもある。
不安になる前に、
怜を確認する癖がついた。
それが、何より大事だった。
放課後。
依音はスマホを見つめて、少し眉を寄せている。
怜は、それを見逃さない。
「どうしたの?」
すぐに聞く。
考えさせる時間を与えない。
「……クラスの子から、今度遊ぼうって」
言いながら、依音の声が小さくなる。
もう、自分でも分かっている。
――怜が、嫌がるかもしれないって。
怜は、一瞬だけ沈黙した。
怒らない。
否定しない。
その代わり、笑う。
「そっか」
柔らかい声。
「依音は、どうしたい?」
質問の形。
でも、答えは決まっている。
依音は唇を噛んでから、怜を見る。
「……怜くんと、いたい」
正解。
怜は、ゆっくり頷いた。
「じゃあ、それでいい」
「無理する必要ないよ」
優しい。
どこまでも。
「依音が疲れることは、全部やめよう」
依音は、ほっとした顔をする。
拒絶された相手のことより、
怜に許された安心感のほうが大きい。
怜は、それを確認してから続けた。
「俺が、ちゃんと説明しておく」
依音は少し驚いた。
「え……?」
「依音が悪く見られないように」
嘘じゃない。
実際、そうするつもりだ。
“月城さんは今、距離を置きたいみたいで”
それだけでいい。
相手がどう思うかなんて、関係ない。
夜。
依音はベッドの上で、メッセージを打っている。
『今日もありがとう』
怜はすぐには返さない。
待たせる。
少しだけ。
その間に、依音は何度も画面を見る。
それを想像すると、胸の奥が静かに満たされる。
数分後。
『依音が落ち着いてたなら、それでいい』
『俺の役目だから』
役目。
その言葉に、依音は少し胸が熱くなる。
『怜くんがいないと、私だめかも』
来た。
怜は、ベッドに横になりながら天井を見る。
完璧なタイミング。
『大丈夫』
『依音は、俺がいるから成り立ってる』
否定しない。
肯定する。
依音が欲しい答えだけを与える。
『それでいい』
依音からの返信は、すぐだった。
『……うん』
短い。
でも、完全に委ねている。
怜は、スマホを胸の上に置く。
思う。
依音は、もう自分の判断基準を持っていない。
何をするか。
誰と話すか。
どう感じるか。
その中心に、自分がいる。
それは、歪んでいるかもしれない。
でも――
怜は、依音が泣かなくなったことを知っている。
夜、一人で不安に潰れなくなったことも。
だから、正しい。
「……もう少しだね」
小さく呟く。
完全に、満たされるまで。
不要な人間は、まだ残っている。
でも、焦らない。
選別は、丁寧に。
依音が気づかないように。
依音が苦しまないように。
世界を削って、
依音と二人分だけ残す。
それが、怜の理想。
守るという名の、完成形。
――依音が、怜以外を必要としなくなる、その日まで。
教室でも、帰り道でも、
気づけばそこにいる。
最初は偶然。
次は自然。
今は――当然。
「怜くん」
名前を呼ばれる回数が増えた。
それは、依音の不安が減った証拠でもある。
不安になる前に、
怜を確認する癖がついた。
それが、何より大事だった。
放課後。
依音はスマホを見つめて、少し眉を寄せている。
怜は、それを見逃さない。
「どうしたの?」
すぐに聞く。
考えさせる時間を与えない。
「……クラスの子から、今度遊ぼうって」
言いながら、依音の声が小さくなる。
もう、自分でも分かっている。
――怜が、嫌がるかもしれないって。
怜は、一瞬だけ沈黙した。
怒らない。
否定しない。
その代わり、笑う。
「そっか」
柔らかい声。
「依音は、どうしたい?」
質問の形。
でも、答えは決まっている。
依音は唇を噛んでから、怜を見る。
「……怜くんと、いたい」
正解。
怜は、ゆっくり頷いた。
「じゃあ、それでいい」
「無理する必要ないよ」
優しい。
どこまでも。
「依音が疲れることは、全部やめよう」
依音は、ほっとした顔をする。
拒絶された相手のことより、
怜に許された安心感のほうが大きい。
怜は、それを確認してから続けた。
「俺が、ちゃんと説明しておく」
依音は少し驚いた。
「え……?」
「依音が悪く見られないように」
嘘じゃない。
実際、そうするつもりだ。
“月城さんは今、距離を置きたいみたいで”
それだけでいい。
相手がどう思うかなんて、関係ない。
夜。
依音はベッドの上で、メッセージを打っている。
『今日もありがとう』
怜はすぐには返さない。
待たせる。
少しだけ。
その間に、依音は何度も画面を見る。
それを想像すると、胸の奥が静かに満たされる。
数分後。
『依音が落ち着いてたなら、それでいい』
『俺の役目だから』
役目。
その言葉に、依音は少し胸が熱くなる。
『怜くんがいないと、私だめかも』
来た。
怜は、ベッドに横になりながら天井を見る。
完璧なタイミング。
『大丈夫』
『依音は、俺がいるから成り立ってる』
否定しない。
肯定する。
依音が欲しい答えだけを与える。
『それでいい』
依音からの返信は、すぐだった。
『……うん』
短い。
でも、完全に委ねている。
怜は、スマホを胸の上に置く。
思う。
依音は、もう自分の判断基準を持っていない。
何をするか。
誰と話すか。
どう感じるか。
その中心に、自分がいる。
それは、歪んでいるかもしれない。
でも――
怜は、依音が泣かなくなったことを知っている。
夜、一人で不安に潰れなくなったことも。
だから、正しい。
「……もう少しだね」
小さく呟く。
完全に、満たされるまで。
不要な人間は、まだ残っている。
でも、焦らない。
選別は、丁寧に。
依音が気づかないように。
依音が苦しまないように。
世界を削って、
依音と二人分だけ残す。
それが、怜の理想。
守るという名の、完成形。
――依音が、怜以外を必要としなくなる、その日まで。
