メンヘラちゃんとヤンデレくん!?

怜は、依音が不安になる瞬間がわかる。
声の震え。
視線の揺れ。
メッセージの文末につく、小さな「……」。
――ああ、まただ。
そのたびに、胸の奥が落ち着く。
必要とされている。
自分がいないと、彼女は崩れる。
それは、怜にとって安心だった。
放課後、依音が教室を出るのを少し遅れて見送る。
誰かと話していないか。
視線を向けられていないか。
全部、確認する。
問題ない。
彼女は、ちゃんと自分の世界にいる。
スマホが震える。
『怜くん、まだ?』
たったそれだけの文。
でも、依音が不安になり始めている証拠だ。
すぐに返す。
『今行く』
校門で合流すると、依音はほっとした顔をした。
それを見るだけで、怜の中のざわつきが消える。
「遅くなってごめんね」
「ううん」
依音は首を振って、怜の袖をつかむ。
……逃げない。
それが、何より大事だった。
帰り道、依音がぽつりと言った。
「ねえ、私って重い?」
またか、と思う。
同時に、嬉しくもなる。
「重いよ」
即答。
依音の顔が強張る前に、続ける。
「でも、それが正しい」
足を止めて、真正面から見つめる。
「軽くて、どこにでも行く人間なんて、信用できない」
「依音は違う」
手を取る。
逃げられない距離。
「俺だけを見て、不安になって、疑って」
「それでも俺を選ぶ」
低い声で、言い聞かせるように。
「それが、愛でしょ?」
依音は何も言わなかった。
ただ、小さく頷いた。
……いい。
ちゃんと、理解している。
夜。
依音からの連絡が途切れた。
数分。
十分。
胸の奥に、黒いものが広がる。
考える必要はなかった。
電話をかける。
「もしもし……?」
眠そうな声。
「今、なにしてる?」
「ベッド……」
「一人?」
「うん」
少し間があってから、続ける。
「窓、ちゃんと閉めて」
「鍵も」
「スマホ、そばに置いて」
指示に、迷いはない。
依音は素直に「うん」と答える。
その声を聞いて、やっと安心できた。
「依音」
「なに?」
「俺がいないと、不安になる?」
少しの沈黙。
それから。
「……なる」
その一言で、怜の心は満たされた。
「それでいい」
優しく言う。
「不安は、俺が管理する」
「依音は、感じるだけでいい」
電話を切ったあと、怜は天井を見上げた。
――世界は、単純だ。
守るものは一つ。
排除するものは、それ以外。
依音が壊れないように。
誰にも触れられないように。
自分が、全部決めればいい。
それが、一番正しい形だから。