アンコールはリビングで

1. 泥のような眠りからの生還

土曜日の正午。
あの「もち麦事件」があった月曜日から数日。

怒涛のような平日をようやく乗り越え、私は泥のような疲労感から生還した。

「……んぅ……よく寝た……」

カーテンの隙間から、冬の澄んだ陽射しが差し込んでいる。
隣を見ると、ベッドの半分はすでにもぬけの殻だった。
リビングの方から、微かにアコースティックギターの音色が聞こえる。爪弾くような、優しい音。

(あ、湊起きてるんだ)

重い身体を起こし、伸びをする。
今週は本当にハードだった。理不尽な上司、後輩のフォロー、積み上がる責任のあるタスク。
なんとか全て処理はしたけれど、それは私の理想とする「スマートな仕事」には程遠く、ただ力技でねじ伏せただけのような、余裕のない一週間だった。 

精神的にも肉体的にも擦り減っていたけれど、今はもう自由だ。今日は待ちに待った休日なのだから。

「おはよー……」

寝ぼけ眼でリビングへ行くと、ソファでギターを抱えていた彼が振り返った。

「お、やっと起きたか。おせーよ、凪」

「おはよう。……早いね」

「ん、なんか目が覚めちまってな。コーヒー淹れてあるぞ」

「飲む。命の水……」

彼が淹れてくれたコーヒーを受け取り、ソファに沈み込む。
一口飲むと、酸味の少ない深い香りが、強張っていた神経を解いていく。

「……なぁ、凪」

「ん?」

「天気いいし、ちょっと散歩行かね?
今週お互い根詰めすぎたし、外の空気吸いてぇ」

彼の提案に、私は大きく頷いた。
確かに、家でダラダラするよりも、冷たい風に当たって頭をリセットしたい気分だった。
私は「免疫力アップのためにも日光浴は大事!」と自分に言い聞かせ、着替えを済ませた。