アンコールはリビングで

2. 玉ねぎと、涙と、ときめきと

「ただいまー」

「お、おかえり」

ドアを開けると、リビングのソファで読書をしていた湊が顔を上げた。

部屋はすでに片付いていて、洗濯物が畳まれ、お風呂まで沸いている。
彼もまた、あのヨレヨレの部屋着に着替え、すっかりリラックスモードだ。

「……なんか、機嫌いいね」

「あ? そうか?」

「うん。背中から音符出てるよ」

私が指摘すると、彼は「そんなことねぇよ」とボソッと言って、また本に視線を落とした。
言葉を交わさなくても分かる。今日の彼は、ご機嫌だ。
きっと仕事が巻きで終わって、ゆっくり一人の時間を満喫できたからだろう。

「よし、じゃあパパッと作っちゃうね」

私はスーツを部屋着に着替え、キッチンに立った。
今日ばかりは「時短」ではなく、愛を込めて。

まずは玉ねぎを薄切りにする。

トントントン、トン。

リズミカルな音が響く。すると、背後に気配を感じた。

「……今日のメイン、何?」

湊が私の肩越しにフライパンを覗き込んできた。
近い。シャンプーのいい匂いがする。

「んっ、湊、あんまり近づかないで」

「なんでだよ」

「今、玉ねぎ切ってるから……成分が飛ぶと……うぅ」

言ってるそばから、硫化アリルが私の涙腺を刺激した。
じわり、と視界が滲む。
私は涙目になりながら、彼の方を振り返った。