アンコールはリビングで

1. 定時退社の優越感

月曜日の17時30分。

オフィスの時計がその時刻を指した瞬間、私はパソコンをシャットダウンした。
今日は奇跡的に残業を回避できた。

窓の外はまだほんのり明るい。こんな時間に会社を出られるなんて、都市伝説だと思っていたけれど、実在したのだ。

「お疲れ様でしたー!」

軽やかな足取りで駅へと向かう。

今日の夕飯のメニューは、もう決まっている。
湊からのリクエスト、「白米」。
それに合わせるのは、決してインスタ映えはしないけれど、白米の最強の相棒となる「あの料理」だ。

スーパーで豚肉と生姜をカゴに入れながら、ふと湊の声が脳内で再生される。

『……また茶色いな』

きっと彼はそう言うだろう。でも知ったこっちゃない。
疲労回復にはビタミンB1たっぷりの豚肉。そして何より、白米にはこれしかないのだ。

「ふふっ、待っててよ白米」

私はエコバッグを肩にかけ、鼻歌まじりに家路を急いだ。