アンコールはリビングで

3. ソファの特等席

結局、そのまま30分ほど「人間カイロ」状態で過ごした後、私たちは遅めのランチ(湊の希望を少し聞き入れて、米粉のパンケーキにした)を食べた。

午後は二人でソファに沈み込み、撮り溜めていた映画を観ることにした。
映画が始まって数分。
当然のように、湊は私の太ももを枕にして横になった。
定位置だ。

「……」

映画の字幕を追っていると、視界の下の方で、大きな手がゆらゆらと動いた。
湊の手だ。私の視線を遮るように、わざと顔の前でひらひらさせている。

「……湊、手。邪魔だよ、字幕見えない」

「見えなくていいだろ。どうせ大したストーリーじゃねぇし」

「名作って評判なんだから失礼なこと言わないの」

私は彼の手をペチリと叩いて退かすが、彼は動じない。
むしろ、退かされた手をそのまま私の頬に添え、親指で唇をなぞり始めた。
映画の内容なんて、これっぽっちも頭に入ってこない。

「……ねぇ、湊」

「あ?」

「映画、見てる?」

「見てねぇよ」

彼は即答すると、私の唇をなぞっていた指で、私の顎をくいっと下に向かせた。

「お前見てる方がおもしれぇもん」

「なっ……」

下からのアングルで見上げられ、心臓が跳ねる。
普段は前髪で隠れている瞳が、今は無防備に晒されている。
その琥珀色の瞳が、とろんとした熱を帯びて私を捕らえていた。

「……バカじゃないの」

「バカで結構。……てか、凪」

「なに?」

「こっち向け」

彼は私の首に手を回すと、グイッと自分の方へ引き寄せた。
逆らう間もなく、視界が彼の顔でいっぱいになる。

触れ合うだけの、優しいキス。
何度も、何度も。

リップ音だけが静かなリビングに響く。

「……ん、みなと……映画……」

「知るかよ、そんなん」

彼は不満げに呟くと、今度は深く、私を求めてきた。

バスケコートで見せたような嫉妬の炎ではない。
もっと静かで、深く、甘い、溺れるような熱。

日曜日の昼下がりの気怠い空気の中で、私たちは互いの輪郭を溶かし合うように口づけを重ねた。