2. 人間カイロ
一通りの家事を終え、私はリビングの床にヨガマットを広げた。
「三十路の身体に冷えは天敵」をスローガンに、休日は必ずストレッチポールで背中をほぐすのが日課だ。
「よし……」
ポールの上に仰向けになり、凝り固まった肩甲骨をゴリゴリと刺激する。
痛気持ちいい感覚に、思わず声が漏れる。
と、その時だった。
「……何してんの」
いつの間にかソファから降りてきた湊が、私の上から顔を覗き込んでいた。
逆光で表情が見えないが、まとわりつくような視線を感じる。
「ストレッチ。湊もやる? 肩甲骨剥がれるよ」
「やらねぇよ。……つーか、邪魔」
「えっ?」
言うが早いか、彼はドサリと私の上に覆いかかってきた。
ポールの上で不安定な私の上に、185センチ、数十キロの体重が乗っかる。
「ぐぇっ……! 重い! 湊、重いってば!」
「うっせ。じっとしてろ」
彼は私の抵抗を無視し、私の首元に顔を埋めると、そのまま脱力した。
まるで、大きな猫が飼い主の上で暖を取るような体勢だ。
彼の体温が、服越しにじわりと伝わってくる。
「……ちょっと、これじゃストレッチできないんだけど」
「いーの。俺が今、充電切れだから」
「充電?」
「ん。凪成分が足りねぇ」
彼は私の首筋に鼻を押し当て、すーっ、と深く息を吸い込んだ。
その吐息がくすぐったくて、私は身をよじる。
けれど、彼はその重みをどけようとはしない。
「……今週、マジで疲れた」
「うん、知ってる。頑張ったね」
「……お前もな」
ボソリと呟く声。
その震動が、胸骨を通して直接響いてくる。
重い。確かに重いけれど、不思議と不快ではない。
むしろ、この重みこそが、彼がここに「いる」という確かな証拠のようで、私の心を満たしていく。
「……はいはい。じゃあ、充電完了まで動かないで差し上げます」
「おう。……いい匂いすんな、お前」
「柔軟剤変えただけだよ」
私は諦めて力を抜き、彼の背中に腕を回した。
私の手の中に収まりきらない広い背中。
外では何万人もの期待を背負っているこの背中が、今は私だけに体重を預けている。
その事実に、胸の奥がきゅっと熱くなった。
一通りの家事を終え、私はリビングの床にヨガマットを広げた。
「三十路の身体に冷えは天敵」をスローガンに、休日は必ずストレッチポールで背中をほぐすのが日課だ。
「よし……」
ポールの上に仰向けになり、凝り固まった肩甲骨をゴリゴリと刺激する。
痛気持ちいい感覚に、思わず声が漏れる。
と、その時だった。
「……何してんの」
いつの間にかソファから降りてきた湊が、私の上から顔を覗き込んでいた。
逆光で表情が見えないが、まとわりつくような視線を感じる。
「ストレッチ。湊もやる? 肩甲骨剥がれるよ」
「やらねぇよ。……つーか、邪魔」
「えっ?」
言うが早いか、彼はドサリと私の上に覆いかかってきた。
ポールの上で不安定な私の上に、185センチ、数十キロの体重が乗っかる。
「ぐぇっ……! 重い! 湊、重いってば!」
「うっせ。じっとしてろ」
彼は私の抵抗を無視し、私の首元に顔を埋めると、そのまま脱力した。
まるで、大きな猫が飼い主の上で暖を取るような体勢だ。
彼の体温が、服越しにじわりと伝わってくる。
「……ちょっと、これじゃストレッチできないんだけど」
「いーの。俺が今、充電切れだから」
「充電?」
「ん。凪成分が足りねぇ」
彼は私の首筋に鼻を押し当て、すーっ、と深く息を吸い込んだ。
その吐息がくすぐったくて、私は身をよじる。
けれど、彼はその重みをどけようとはしない。
「……今週、マジで疲れた」
「うん、知ってる。頑張ったね」
「……お前もな」
ボソリと呟く声。
その震動が、胸骨を通して直接響いてくる。
重い。確かに重いけれど、不思議と不快ではない。
むしろ、この重みこそが、彼がここに「いる」という確かな証拠のようで、私の心を満たしていく。
「……はいはい。じゃあ、充電完了まで動かないで差し上げます」
「おう。……いい匂いすんな、お前」
「柔軟剤変えただけだよ」
私は諦めて力を抜き、彼の背中に腕を回した。
私の手の中に収まりきらない広い背中。
外では何万人もの期待を背負っているこの背中が、今は私だけに体重を預けている。
その事実に、胸の奥がきゅっと熱くなった。
