アンコールはリビングで

1. ソファの上の巨大な障害物

日曜日の午前10時。
カーテン越しに柔らかな陽光が差し込むリビングは、平和そのものだった。
ただし、ソファの上を除いては。

「……湊、ちょっとどいて」

「やだ」

「掃除機かけたいんだけど」

「あとでいいだろ……」

私が声をかけると、ソファに同化していた巨大な物体が、モゾモゾと不満げに動いた。

昨日のバスケデートで久しぶりに体を動かした反動か、今日の湊は「一歩も家から出ない」と固く心に誓っているらしい。
例の3年モノの毛玉スウェット(グレー)に身を包み、ブランケットを頭から被り、完全に「休日のダメ人間」と化している。

「ここ、俺の巣だから。立ち入り禁止」

「はいはい。じゃあ巣の周りだけかけるから足上げて」

私が掃除機のノズルを向けると、彼は無言で長い脚をひょいと上げた。
ウィーン、というモーター音にも動じず、彼はスマホでゲームを続けている。
テレビの中では、彼が出演したCMが爽やかに流れているというのに、実物はこれだ。

(……同一人物とは到底思えない)

私は苦笑しながら、彼を避けて掃除を続けた。
世間の女性たちが知ったら幻滅するか、それともギャップに萌えるか。
少なくとも私は、この無防備な背中を愛おしいと思ってしまっているのだから、完全に毒されている。

「……凪」

「ん?」

「腹減った。なんか食うもんない?」

「朝ごはん食べたばっかりでしょ。冷蔵庫に作り置きのピクルスあるけど」

「草じゃなくて、もっとこう……ガツンとしたやつ」

「ダメ。昨日の夜、鍋の〆にうどん食べたでしょ。今日のお昼は軽めにするの」

私はキッパリと言い放ち、洗濯機の方へと向かった。
背後で「……ちぇっ、鬼コーチかよ」という、諦め混じりのボヤきが聞こえたが、無視だ。

彼と私の健康管理は、私のライフワークなのだから。