僕には悩みがある
それは隣の席のAさんのことだ
彼女は何かある度、僕に声を掛けてくる
「ねぇ、B 何読んでるの?面白い??」
「まだ数ページしか読んでないから何とも」
「そっか」
こんなふうに、僕の方を見て微笑みながら
度々些細なことで会話してくる謎な女の子だ
今日も可愛いな、Aさんは
キラキラしてるよ
自分で言うのも癪だが
かっこよくも無ければ人気者でもない
窓辺の隅っこの住民の一人だ
何故こんな僕に毎日話しかけてくるのかが
未だにわからず、一年のころから
同じクラスなんだけど
今、二年に突入してしまった
クラス替えがあったにもかかわらず
また、同じクラス、なんなら隣の席
このまま三年も一緒なのではとも思ってしまう
「ねぇ、昼休み暇?一緒にご飯たべない?」
「え、僕と…?」
「うん、放課後でもいいよ
一緒に遊びいこーよ」
本当にわからない、言葉に詰まってしまう
なんで……僕?
「Aさんは僕でいいの?」
「Bがいいな」
え……?
こんなこと可愛くて人気者の彼女に言われたら
彼女を好きな人は赤面してしまいそうだ
「どっちも空いてる…けど」
「やった!じゃあ私で予約埋めといて」
僕の返答で万遍の笑みでウインクまで決めるAさん
なにこれ、可愛すぎないこの子
僕はふいっと窓の方を向く
煩悩に負けてはダメだと手に持つ本に集中させる
その本をAさんがひょいっと
僕の手から奪い取る
「あ……」
「文字ばっかりで、難しいの読んでるね」
目の前に来ていたAさんは
僕が読んでいた本をペラペラと捲っている
「休み時間なんだから、脳休めないとダメだぞ」
Aさんはハニカミながら僕の額に
人差し指を置き軽く触れ、本を返してくれた
ぽかーんと僕は固まってしまう
授業がはじまるチャイムが鳴った
隣をみるとAさんがいない
そういえばいつも休み時間にしか
Aさんは僕に話しかけにこない
同じクラスなのに授業中一度も
Aさんを見たこともAさんの名前が呼ばれることも
聞いたことがない
なんでだろう……
Aさんは何処にいるんだろう
後で友達に聞いてみようかな
……あれ?僕、Aさん以外知らないや
なんでだろう
そろそろ夏休みにも入るのに
Aさん以外の人の名前思い出せないや
「Bー、昼休みだよ」
Aさんに呼びかけられるまで
授業が終わってることに気づかなかった
「あれ?」
「まだ教科書開いてたの?
可愛いところもあるんだね」
Aさんは僕の手を引いてグラウンドに向かう
この学校のグラウンドの隣には
小さいけど庭園がある
この時期は、ひまわりが咲いていて
理事長の趣味らしく
季節ごとに違う花が植えられている
僕はそんな話ここに入学して
一度も聞いたことないけど
誰かから聞いたんだよな
誰だっけ?
「Bって料理する?」
「いや、普段は全くかな、母さんいるし」
「好み教えてよ、何が好き?」
好み…?
庭園にあるベンチに腰を下ろす
隣に座るAさんとの距離が近い、近すぎる
「…うーん、卵焼きよりは目玉焼き派かな?」
ものすごく曖昧な返答をしてしまった気がする
「じゃあこれあげる」
Aさんは僕の弁当に目玉焼きをのせる
「私、料理大好きなんだ
味見してよ、点数きかせて」
「は……っ え…?」
Aさんといるとおかしくなりそうだ
ぎこちない表情で言葉的に手作りであろう
Aさんがくれた目玉焼きを頬張る
「………美味しい」
「ほんと!?」
「うん……点数は付けられないけど、好きな味」
Aさんは将来シェフになるのかな?
僕の中で正直
母さんや僕が作る目玉焼きよりも
Aさんの目玉焼きは美味しい
と、同時に僕は何をやっているんだと
急に顔が赤くなり、俯く
「今度Bの弁当作ってきたいな
そしたら食べてくれる?」
Aさんは僕に追い討ちをかけるように会話を続ける
「……っ」
「Bのお母様には負けちゃうけど
Bの好きなものたくさん入れてあげるよ」
距離は近いし、笑顔は可愛いし
そんなこと言われたら
頭が……目が……グルグルしてくる
「B、放課後も空けといてね
私はそっちの方が大事だから」
「え?あ……うん」
「デートしよっか」
デートという言葉に
これまで何度も止まりかけていた箸が
完全に止まる
そして、同じように思考までも止まった
「デ、デート……?」
「ちゃんとリードしてね」
僕の返答を聞かずにAさんはベンチから立ち上がり
そろそろ昼休みが終わるから、また放課後ね
と、学校に戻っていく
僕は箸を動かして弁当食べ終え
なんとも言えない表情で教室に戻る
5、6時間目と授業がはじまるが
Aさんはまた居なかった
前の席の男の子にAさんのことを聞いたが
お前、寝ぼけてるの?と言われ
何のことか分からなかったが
彼とはそれ以上の会話はなかった
「B、お待たせ」
いつの間にか、放課後になっていて
目の前にカバンを持ったAさんがいた
その手に持ってるカバン、僕のなんだけど
「色々入ってるから、重たいよ」
「これくらいなら、平気
でも、Bと手繋げなくなるから返す」
「え?」
Aさんからカバンを渡され
受け取るが、先程の言葉が頭の中を駆け回る
今、手繋ぐとか言わなかった?
「早く行こっか」
僕はまたAさんに手を取られて
そそくさと学校出る
どこか行く場所でもあるのかと思ったら
Aさんは特にお店に立ち寄るでもなく
ただ街中を彷徨い続けるばかり
「カフェでもよる?
ほら、ここ駅前に新しいカフェがあるところだし」
「え?………あ、あぁ!そうだね!」
Aさんは何か考え事をしていたのか
少し返答が遅かった
「えっと…駅前……」
もしかしてカフェ知らないのかな?
確かにAさんが、この街近くの住まいじゃなかったら
知らないのも当然か
「僕の家ちょうど駅前の近くで
よかったら、案内しようか?」
「いいの!?行きたい!」
僕の言葉に目をキラキラさせながらニコッと笑う
僕はAさんにそのカフェを案内する
向かっている途中にAさんが、スマホを取り出す
まただ……
今日のAさんはいつも以上に
スマホを確認している気がする
真剣な顔で 何かのサイトを見ているようだった
このサイト、お気に入りなのかな?
直後にポケットに入れていた僕のスマホも
ブザーが鳴り、震えだす
「………だめだったか」
かすかにAさんが何か話した気がする
けどその時の僕は
目の前の書かれた文章に釘付けだった
【〇月✕日 現在時刻△△時
□学校の二階にて火災が発生しました
二階のほとんどは燃え尽き全焼
一階と三階にまで広がっている炎で
取り残されてしまった生徒、職員は
救助隊の元、救出活動が行われている状況です】
火の海と化した自分の通う学校の写真と
文章を読みながら
救急車と消防車のサイレンが
すぐ近くで鳴り響いている
多分、だいぶ前から鳴っていたと思う
「……Aさん」
多分、僕は気づきたくなかったんだ
気づくのが遅かったんだ
「……この火事、なに?今日ずっとスマホ見てるよね
知ってた……んだよね 」
Aさんなら知ってると思って
今、自分が頭の中で思っていることをそのまま話す
Aさんからは、予想していた答えが返ってきた
「……うん火事……今日起きるの知ってた
だから、どうしても、放課後君を連れ出したくて…」
「僕たちもあの火事に巻き込まれてるよね?」
「……うん、二階は全焼だからね
私たち二年生だから……二階に教室あるもん」
僕にはもう一つAさんに聞きたいことがある
「Aさん、もしかして……」
僕の言葉を遮るようにAさんが笑って自分から話す
「えへへ、バレちゃったか
そう、私あの日ちょうど教室にいて
火元が廊下挟んだ隣の男子トイレで
おふざけで男子数名がライター使って遊んでたみたい
取っ組み合いしてライター片手に
転がったりしてたみたいで
何かに燃え移って、その後は……」
Aさんは火事の詳細まで僕に教えてくれた
「…君はまだ生きてるよ」
「え…」
「君毎日教室から出るの早いもん
玄関前にいたらしいね」
てっきり僕はAさんと同じで
もうこの世にはいないと思っていた
Aさんの言葉にそうなの?と首を傾げる
「あまりお母様を泣かせちゃダメだよ
美味しいお弁当作ってくれる優しいお母様なんだから」
Aさんが、僕の手にそっと触れる
その手は異常に冷たかった
そうか、僕も玄関前にいたとはいえ
二階を焼き尽くすほどの火事
下駄箱で靴履き替えてたら 逃げるのは間に合わないか
だんだんとあの火事の日の記憶が蘇ってくる
同時に、本当にここは夢なんだなと
心が急に虚しくなる
だってわかってしまったら
今この目に映る僕の前にいるAさんは………
「夢から覚めて、またいつもの日常に戻らなきゃ
君とまだまだたくさん会話したいし
こうやって二人きりで遊びにだって行きたいよ
全部夢だったんだもん、私の
手作りのお弁当だって作って渡したいもん」
目を覚ましてとAさんが微笑みながらか細く僕に呟く
けど、僕には目覚めたくない理由ができてしまった
目を覚ましたら、Aさんはいない
この事実だけで胸が張り裂けそうなくらい
十分すぎる理由だった
「Aさんは…居ないんだよね
僕が目覚めても、そこにはもう居ないんだよね」
僕の言葉に返答は返ってこなかった
Aさんは、ただにっこりと笑うだけ
泣きそうな悲しそうな笑顔で
「……本、ちゃんと読んだよ」
「本?」
重たい沈黙を破ったのはAさんだった
「そう、君が読んでた本
君ならきっといい先生になれるよ
君が先生になってる所、私も見たいな」
「Aさん……」
「でも小学校の先生は、意外だなー
君、私としか普段喋んないじゃん
小学生の相手できる?」
「………」
「始まりは、私からだったけど
……大好きだったよ………。
先生になったら私にも教えてね!
お祝いしなくちゃ!」
そう笑顔で答えるAさん
僕の気のせいだろうか?
だんだんとAさんが見えずらくなってる気がする
むしろ気のせいであってほしい
夕日でAさんの体が透けて見える……
「私、魔法使いになったんだ
あの火事で誰よりも先に逝っちゃったから
心配だったんだよ、君のことが
大きな怪我もなく、助かってよかった!」
照らされていた夕日もだんだんと沈んでいく
そろそろタイムリミットみたいだ
名残惜しいけど、Aさんに言われてしまったら
行かないわけにはいかない
「Aさん……ありがとう」
「どういたしまして!元気でね」
この言葉で僕がAさんと話したのは最後となった
目を覚ますと全面真っ白な部屋にいた
目を覚まして、すぐに
母親の泣き叫ぶ声が聞こえた
「……母さん」
「目を覚ましてよかった…っ!!B…っ!!」
Aさんにはちゃんとお別れ言いたかったな
あんな言葉で最後になってしまった
僕は、そのまま色々と検査を受けて
眠りについている間に火傷や擦り傷などの
治療は済んでいたようで、後日無事退院になった
退院してすぐ、僕は学校からAさんの住所を訪ね
この足でAさんのご両親から聞いた
Aさんのお墓の前に居る
「Aさん、帰ってきたよ」
もう言葉は返ってこないけれど
なんとなく Aさんなら笑ってる気がする
「こんな形でお別れなんてしたくなかったけど
僕はもう大丈夫だから、Aさんも安らかに眠ってね
予定通り教師になったら、また報告に来るよ」
Aさんと約束したから、必ずまたここに来る
それまで待っててね
𝑭𝒊𝒏.
『隣の席の魔法使いさん』終わり
それは隣の席のAさんのことだ
彼女は何かある度、僕に声を掛けてくる
「ねぇ、B 何読んでるの?面白い??」
「まだ数ページしか読んでないから何とも」
「そっか」
こんなふうに、僕の方を見て微笑みながら
度々些細なことで会話してくる謎な女の子だ
今日も可愛いな、Aさんは
キラキラしてるよ
自分で言うのも癪だが
かっこよくも無ければ人気者でもない
窓辺の隅っこの住民の一人だ
何故こんな僕に毎日話しかけてくるのかが
未だにわからず、一年のころから
同じクラスなんだけど
今、二年に突入してしまった
クラス替えがあったにもかかわらず
また、同じクラス、なんなら隣の席
このまま三年も一緒なのではとも思ってしまう
「ねぇ、昼休み暇?一緒にご飯たべない?」
「え、僕と…?」
「うん、放課後でもいいよ
一緒に遊びいこーよ」
本当にわからない、言葉に詰まってしまう
なんで……僕?
「Aさんは僕でいいの?」
「Bがいいな」
え……?
こんなこと可愛くて人気者の彼女に言われたら
彼女を好きな人は赤面してしまいそうだ
「どっちも空いてる…けど」
「やった!じゃあ私で予約埋めといて」
僕の返答で万遍の笑みでウインクまで決めるAさん
なにこれ、可愛すぎないこの子
僕はふいっと窓の方を向く
煩悩に負けてはダメだと手に持つ本に集中させる
その本をAさんがひょいっと
僕の手から奪い取る
「あ……」
「文字ばっかりで、難しいの読んでるね」
目の前に来ていたAさんは
僕が読んでいた本をペラペラと捲っている
「休み時間なんだから、脳休めないとダメだぞ」
Aさんはハニカミながら僕の額に
人差し指を置き軽く触れ、本を返してくれた
ぽかーんと僕は固まってしまう
授業がはじまるチャイムが鳴った
隣をみるとAさんがいない
そういえばいつも休み時間にしか
Aさんは僕に話しかけにこない
同じクラスなのに授業中一度も
Aさんを見たこともAさんの名前が呼ばれることも
聞いたことがない
なんでだろう……
Aさんは何処にいるんだろう
後で友達に聞いてみようかな
……あれ?僕、Aさん以外知らないや
なんでだろう
そろそろ夏休みにも入るのに
Aさん以外の人の名前思い出せないや
「Bー、昼休みだよ」
Aさんに呼びかけられるまで
授業が終わってることに気づかなかった
「あれ?」
「まだ教科書開いてたの?
可愛いところもあるんだね」
Aさんは僕の手を引いてグラウンドに向かう
この学校のグラウンドの隣には
小さいけど庭園がある
この時期は、ひまわりが咲いていて
理事長の趣味らしく
季節ごとに違う花が植えられている
僕はそんな話ここに入学して
一度も聞いたことないけど
誰かから聞いたんだよな
誰だっけ?
「Bって料理する?」
「いや、普段は全くかな、母さんいるし」
「好み教えてよ、何が好き?」
好み…?
庭園にあるベンチに腰を下ろす
隣に座るAさんとの距離が近い、近すぎる
「…うーん、卵焼きよりは目玉焼き派かな?」
ものすごく曖昧な返答をしてしまった気がする
「じゃあこれあげる」
Aさんは僕の弁当に目玉焼きをのせる
「私、料理大好きなんだ
味見してよ、点数きかせて」
「は……っ え…?」
Aさんといるとおかしくなりそうだ
ぎこちない表情で言葉的に手作りであろう
Aさんがくれた目玉焼きを頬張る
「………美味しい」
「ほんと!?」
「うん……点数は付けられないけど、好きな味」
Aさんは将来シェフになるのかな?
僕の中で正直
母さんや僕が作る目玉焼きよりも
Aさんの目玉焼きは美味しい
と、同時に僕は何をやっているんだと
急に顔が赤くなり、俯く
「今度Bの弁当作ってきたいな
そしたら食べてくれる?」
Aさんは僕に追い討ちをかけるように会話を続ける
「……っ」
「Bのお母様には負けちゃうけど
Bの好きなものたくさん入れてあげるよ」
距離は近いし、笑顔は可愛いし
そんなこと言われたら
頭が……目が……グルグルしてくる
「B、放課後も空けといてね
私はそっちの方が大事だから」
「え?あ……うん」
「デートしよっか」
デートという言葉に
これまで何度も止まりかけていた箸が
完全に止まる
そして、同じように思考までも止まった
「デ、デート……?」
「ちゃんとリードしてね」
僕の返答を聞かずにAさんはベンチから立ち上がり
そろそろ昼休みが終わるから、また放課後ね
と、学校に戻っていく
僕は箸を動かして弁当食べ終え
なんとも言えない表情で教室に戻る
5、6時間目と授業がはじまるが
Aさんはまた居なかった
前の席の男の子にAさんのことを聞いたが
お前、寝ぼけてるの?と言われ
何のことか分からなかったが
彼とはそれ以上の会話はなかった
「B、お待たせ」
いつの間にか、放課後になっていて
目の前にカバンを持ったAさんがいた
その手に持ってるカバン、僕のなんだけど
「色々入ってるから、重たいよ」
「これくらいなら、平気
でも、Bと手繋げなくなるから返す」
「え?」
Aさんからカバンを渡され
受け取るが、先程の言葉が頭の中を駆け回る
今、手繋ぐとか言わなかった?
「早く行こっか」
僕はまたAさんに手を取られて
そそくさと学校出る
どこか行く場所でもあるのかと思ったら
Aさんは特にお店に立ち寄るでもなく
ただ街中を彷徨い続けるばかり
「カフェでもよる?
ほら、ここ駅前に新しいカフェがあるところだし」
「え?………あ、あぁ!そうだね!」
Aさんは何か考え事をしていたのか
少し返答が遅かった
「えっと…駅前……」
もしかしてカフェ知らないのかな?
確かにAさんが、この街近くの住まいじゃなかったら
知らないのも当然か
「僕の家ちょうど駅前の近くで
よかったら、案内しようか?」
「いいの!?行きたい!」
僕の言葉に目をキラキラさせながらニコッと笑う
僕はAさんにそのカフェを案内する
向かっている途中にAさんが、スマホを取り出す
まただ……
今日のAさんはいつも以上に
スマホを確認している気がする
真剣な顔で 何かのサイトを見ているようだった
このサイト、お気に入りなのかな?
直後にポケットに入れていた僕のスマホも
ブザーが鳴り、震えだす
「………だめだったか」
かすかにAさんが何か話した気がする
けどその時の僕は
目の前の書かれた文章に釘付けだった
【〇月✕日 現在時刻△△時
□学校の二階にて火災が発生しました
二階のほとんどは燃え尽き全焼
一階と三階にまで広がっている炎で
取り残されてしまった生徒、職員は
救助隊の元、救出活動が行われている状況です】
火の海と化した自分の通う学校の写真と
文章を読みながら
救急車と消防車のサイレンが
すぐ近くで鳴り響いている
多分、だいぶ前から鳴っていたと思う
「……Aさん」
多分、僕は気づきたくなかったんだ
気づくのが遅かったんだ
「……この火事、なに?今日ずっとスマホ見てるよね
知ってた……んだよね 」
Aさんなら知ってると思って
今、自分が頭の中で思っていることをそのまま話す
Aさんからは、予想していた答えが返ってきた
「……うん火事……今日起きるの知ってた
だから、どうしても、放課後君を連れ出したくて…」
「僕たちもあの火事に巻き込まれてるよね?」
「……うん、二階は全焼だからね
私たち二年生だから……二階に教室あるもん」
僕にはもう一つAさんに聞きたいことがある
「Aさん、もしかして……」
僕の言葉を遮るようにAさんが笑って自分から話す
「えへへ、バレちゃったか
そう、私あの日ちょうど教室にいて
火元が廊下挟んだ隣の男子トイレで
おふざけで男子数名がライター使って遊んでたみたい
取っ組み合いしてライター片手に
転がったりしてたみたいで
何かに燃え移って、その後は……」
Aさんは火事の詳細まで僕に教えてくれた
「…君はまだ生きてるよ」
「え…」
「君毎日教室から出るの早いもん
玄関前にいたらしいね」
てっきり僕はAさんと同じで
もうこの世にはいないと思っていた
Aさんの言葉にそうなの?と首を傾げる
「あまりお母様を泣かせちゃダメだよ
美味しいお弁当作ってくれる優しいお母様なんだから」
Aさんが、僕の手にそっと触れる
その手は異常に冷たかった
そうか、僕も玄関前にいたとはいえ
二階を焼き尽くすほどの火事
下駄箱で靴履き替えてたら 逃げるのは間に合わないか
だんだんとあの火事の日の記憶が蘇ってくる
同時に、本当にここは夢なんだなと
心が急に虚しくなる
だってわかってしまったら
今この目に映る僕の前にいるAさんは………
「夢から覚めて、またいつもの日常に戻らなきゃ
君とまだまだたくさん会話したいし
こうやって二人きりで遊びにだって行きたいよ
全部夢だったんだもん、私の
手作りのお弁当だって作って渡したいもん」
目を覚ましてとAさんが微笑みながらか細く僕に呟く
けど、僕には目覚めたくない理由ができてしまった
目を覚ましたら、Aさんはいない
この事実だけで胸が張り裂けそうなくらい
十分すぎる理由だった
「Aさんは…居ないんだよね
僕が目覚めても、そこにはもう居ないんだよね」
僕の言葉に返答は返ってこなかった
Aさんは、ただにっこりと笑うだけ
泣きそうな悲しそうな笑顔で
「……本、ちゃんと読んだよ」
「本?」
重たい沈黙を破ったのはAさんだった
「そう、君が読んでた本
君ならきっといい先生になれるよ
君が先生になってる所、私も見たいな」
「Aさん……」
「でも小学校の先生は、意外だなー
君、私としか普段喋んないじゃん
小学生の相手できる?」
「………」
「始まりは、私からだったけど
……大好きだったよ………。
先生になったら私にも教えてね!
お祝いしなくちゃ!」
そう笑顔で答えるAさん
僕の気のせいだろうか?
だんだんとAさんが見えずらくなってる気がする
むしろ気のせいであってほしい
夕日でAさんの体が透けて見える……
「私、魔法使いになったんだ
あの火事で誰よりも先に逝っちゃったから
心配だったんだよ、君のことが
大きな怪我もなく、助かってよかった!」
照らされていた夕日もだんだんと沈んでいく
そろそろタイムリミットみたいだ
名残惜しいけど、Aさんに言われてしまったら
行かないわけにはいかない
「Aさん……ありがとう」
「どういたしまして!元気でね」
この言葉で僕がAさんと話したのは最後となった
目を覚ますと全面真っ白な部屋にいた
目を覚まして、すぐに
母親の泣き叫ぶ声が聞こえた
「……母さん」
「目を覚ましてよかった…っ!!B…っ!!」
Aさんにはちゃんとお別れ言いたかったな
あんな言葉で最後になってしまった
僕は、そのまま色々と検査を受けて
眠りについている間に火傷や擦り傷などの
治療は済んでいたようで、後日無事退院になった
退院してすぐ、僕は学校からAさんの住所を訪ね
この足でAさんのご両親から聞いた
Aさんのお墓の前に居る
「Aさん、帰ってきたよ」
もう言葉は返ってこないけれど
なんとなく Aさんなら笑ってる気がする
「こんな形でお別れなんてしたくなかったけど
僕はもう大丈夫だから、Aさんも安らかに眠ってね
予定通り教師になったら、また報告に来るよ」
Aさんと約束したから、必ずまたここに来る
それまで待っててね
𝑭𝒊𝒏.
『隣の席の魔法使いさん』終わり
