身代わりの仮婚約者になったら、銀髪王子に人生丸ごと買い占められた件

「――ひまり! そこにいるんだろ、ひまり!!」

「え……この声……」

私の体が、弾かれたように反応する。
バタン!と大きな音を立てて広間の扉をこじ開けて入ってきたのは、肩で息を切らした一人の青年だった。

「悠真……!?」

私の幼なじみで、実家の近所に住む悠真だ。
いつもは明るい茶髪を振り乱し、必死な形相で私を凝視していた。

「よかった、無事だったんだな……! いきなりリムジンに押し込まれるのを見て、俺、必死で自転車で追いかけて……」

「自転車でここまで……!?」

都心からかなり離れたこの別邸まで、自転車で?
悠真くんは私の腕を掴むと、そのまま自分の背中に隠すように引き寄せた。

「帰るぞ、ひまり。こんな奴らの言いなりになる必要なんてない。……あんたが一条蓮か。ひまりを無理やり連れ去るなんて、何様のつもりだ!」

悠真が、奥のソファにゆったりと腰掛けていた一条様を鋭く睨みつける。一条様は、表情一つ変えず、優雅に立ち上がった。

「何様のつもり、か。……君のような『ただの幼なじみ』に、俺の所有物の行方を指図される筋合いはないんだが」

「……所有物だと!?」

空気が、一瞬で凍りついた。
一条様はゆっくりと歩み寄ると、悠真が握っている私の手首を、上から冷たく、けれど力強く上書きするように掴み取った。

「その汚い手で、俺のものに触れるな。……身の程をわきまえろ、部外者」

「離せよ……! ひまりは、あんたの道具じゃない!」

「道具? 違うな。彼女は俺の『婚約者』だ。本人が納得して、体で負債を払うと決めたんだよ。……なあ、ひまり?」

一条様が、私の耳元に顔を寄せ、あの甘い毒を含んだ声で囁く。悠真の、守ってくれるような温かい手。
一条様の、逃がしてくれない冷たくて熱い手。

二人の視線が、私の頭上で激しくぶつかり合った。

「……ひまり、本当なのか? こいつの言ってること……」

悲しげに揺れる悠真くんの瞳と、試すように私を見つめる一条様の瞳。私の仮の婚約者ライフは、早くも泥沼の「奪い合い」へと突入してしまった。