アオハル・ミュージック ~キミに届け、ココロの音~



「みなさん、こんにちは。これから恋ヶ咲中学放送委員会のお昼の放送を始めます。今月は平成ソング特集ということで、平成にリリースされてヒットした曲をお送りします。最初の曲は、1998年にヒットした春うたです。GLAYで『SOUL LOVE 』!」


恋ヶ咲中学に入学して数日。

初めてのお昼休みに聞こえてきたのは放送委員会の放送だった。

賑やかな教室の中、爽やかなギターのイントロが流れる。

「あ、この曲お母さんが高校生の時に大好きだった曲だ」

一緒にお弁当を食べている詩乃(しの)ちゃんがつぶやいた。

「詩乃ちゃんのお母さん、GLAY好きなの?」

「うん。今でもライブ行ってるよ。わたしも何度か連れてってもらった」

「そうなんだ。すごいね~」

わたしが生まれる前にすごく人気があって今も活動しているアーティストだから、親子でライブを観るっていうファンも多いんだろうな。

「でも、心音ちゃんのご両親だってすごいじゃない。今もプロとして音楽活動してるんでしょ?」

「うん。でもほとんどテレビには出ないし、知らない人も多いから」

「え~でもすごいよ! わたしだったらみんなに自慢しまくっちゃう」

詩乃ちゃんはそんな風に言ってくれるけど、お父さんとお母さんのことを知っている人はそんなにいない。

わたしのお母さんは鈴原 結音という名前でシンガーソングライターとして活動していて、お父さんは遠坂 由弦という名前でお母さんのサポートギタリストとして一緒に音楽活動をしている。

デビューしてから数年はランキング1位になってテレビ出演もしていたみたいだけど、結婚してわたしが生まれてからはコンサート活動メインで今の世間的には「そんなアーティストもいたね」くらいの認知度だと思う。

それでもファンの人たちには「実力派」と言われ地道に音楽活動を続けているふたりのことをわたしはとても尊敬している。

そして、わたしもいつかお母さんみたいな歌手になりたいと思っているんだ。

「ここで皆さんにお知らせです。恋ヶ咲中学放送委員会では、毎週水曜日に『アオハルお悩み相談室』というコーナーを放送しています。小さな悩みから大きな悩みまで、相談したいことがありましたら放送室前に置いてある「アオハル相談室ポスト」にぜひ投稿してください。もちろん実名は出さなくてOKです。放送委員が皆さんのお悩みに合う楽曲を選曲してエールを送ります」

曲が終わったところで、再び放送委員の人が話し始めた。

わたしたち新入生にとっては初めて知る放送内容に、周りから「なんか本格的なラジオ番組みたいだね~」なんて声もあがっている。

小学生の頃はお昼の放送と言ってもただリクエスト曲や先生が選んだ曲が流れるだけだったから、お悩み相談があるなんて面白そう。

匿名でいいなら、今度わたしも投稿してみようかな。


* * *


「ただいま~」

放課後、授業を終えて家に帰ると、リビングには誰もいなかった。

お父さんは仕事で出かけているけど、お母さんは今日は予定がなかったはず。

もしかしてあの場所かな?と思って、制服のまま地下へ続く階段を降りる。

すると、予想通りピアノの音と歌声が聞こえてきた。

扉を開けて中に入ると、お母さんがわたしに気がついて演奏を止めた。

「おかえり、心音。もうそんな時間だったのね」

「ただいま。また新曲作りしてたの?」

「そう。なかなか進まないけどね」

ピアノのそばに行って譜面を見ると、確かに書きかけになっている。

「ラ~ララ~♪」

何気なく口ずさみ始めたら、お母さんが私の歌声に合わせてピアノを弾き始めた。

そしてお母さんも歌い出して、ふたりで一緒に口ずさむ。

こうして自宅の地下にあるスタジオでお母さんと歌ったり、曲作りしている所を見たりする時間がわたしは大好きなんだ。

「心音、歌上手くなったね」

「本当? 嬉しい!」

「もしも本当に歌手を目指すなら、そろそろ何かチャレンジしてみてもいいんじゃないかな」

「チャレンジか~。でもオーディション受けるのはさすがにまだ緊張するな」

「最近は動画でバズる流行り方もあるから、動画やってみたら?」 

「そっか、確かにわたしのクラスでも自分のチャンネル持ってる子いるしね。でも、顔出すのはお父さんが反対するだろうし、わたしも恥ずかしいかも」

「動画でも顔出ししなければいいんじゃない? 最近はイラストのみのMVで顔出しせずに活動してる歌い手さんも多いでしょ?」

お母さんはさすがプロとして活動してるだけあって、詳しい。

「由弦さんとも相談して考えてみようか」

「うん」

その後お父さんとも相談した結果、顔出しはしないこと、プロフィールは公表しないことを条件に動画公開をすることになった。

でも、公開するとしてどんな歌を歌ったらいいんだろう?

自分で作詞作曲はまだしたことがないし、お母さんの歌をカバーするのはさすがに恥ずかしい。

そこでふと、今日のお昼に放送していた悩み相談のことを思い出した。

そうだ、放送委員に相談してみよう!


* * *


「皆さん、こんにちは。恋ヶ咲中学放送委員会のお昼の放送を始めます。今日は青春相談室のコーナーをお送りします」

水曜日のお昼休み。

聞こえてきた放送に少し緊張しながら耳を傾ける。

わたしの相談、紹介されるかな?

「早速相談のお手紙がたくさん届いています。まずはこのお悩みからです。『わたしは歌う事が大好きで、歌手になるのが夢です。今度カバー曲を動画で投稿してみようと思っているのですが、選曲に悩んでいます。何かオススメの曲はありますか?』」

……わたしが書いた内容だ!

本当に紹介されて、嬉しいような恥ずかしいような気持ちになる。

「ということで、放送委員のメンバーでも悩んだのですが、『歌が好き』という歌詞が印象的で春にピッタリの平成ソングを選んでみました。良かったら選曲の参考にしてみて下さい。1999年リリース、Hysteric Blue(ヒステリックブルー) で『春~Spring~』」

流れてきた曲は、わたしも聴いた事がある曲だ。

タイトル通り春が来た時のキラキラ感やワクワク感が音と歌詞で表現されていて、聴いているだけで心が明るくなる。

そしてわたしが特に心を掴まれたのは2番の歌詞。


♪授業よりも食事よりも
 もっと大切なコト
 あたし歌が好き

ミュージシャンの両親がいて、小さな頃から歌うことが大好きなわたしにはとても共感できるフレーズ。

歌いこなせるか心配だけど、帰ったら早速練習してみよう!


* * *


放課後、家に帰ると地下スタジオにはお母さんがいて、楽曲制作をしていた。

「お母さん、この曲知ってる?」

スマホで検索した動画を見せると、

「知ってるよ。お母さんも大好きな曲」

と笑顔で答えてくれた。

「この曲カバーしようと思うんだけど、どうかな?」

「いいんじゃない? ちょっと歌ってみる?」

そう言ってお母さんが早速ピアノでイントロを弾き始めた。

さすが好きな曲だけあって、譜面がなくても弾けるんだ。


♪こういう夢ならもう一度会いたい
 春が来る度あなたに会える

お母さんのピアノに合わせて歌う。

まだ音程もメロディーも不安定だ。

だけど、歌っているとワクワクして、楽しい。

「まだまだ練習は必要だと思うけど、心音も歌ってて楽しそうだし、いいんじゃない?」

お母さんもそう言ってくれて、この曲をカバーすることに決めた。

それから約2週間、毎日お母さんとお父さんに練習につきあってもらってだいぶ歌えるようになった。

原曲のバンドアレンジではなく、お母さんのピアノとお父さんのギターで伴奏してもらったアコースティックバージョンで歌うことになり、両親には伴奏の録音までしてもらった。

そして、ついに今日投稿用の動画を撮影する。

わたしにとっては、これが夢を叶えるための第一歩だ。

自宅のスタジオで、伴奏の音源を流しながら歌う。

何度も何度も歌ってきて、歌うたびに大好きになった曲。

命の芽吹きや新たな出会いというキラキラワクワクだけじゃなく、別れの切なさと寂しさも込められた曲。

歌詞の一言一句、一音一音に心を込めて、丁寧に歌う。


♪こういう夢だし もう一度懸けたい
 いつか…

最後のフレーズを歌い終えて、アウトロを聴く。

自分で言うのも何だけど、今までで一番良かったと思う。

「お疲れ様! すごく良かったよ」

目の前で聴いていたお母さんが笑顔で拍手をしてくれた。

「ありがとう」

「そういえば、動画のチャンネル名決めた?」

「まだ悩んでるんだ」

「じゃあ心音の名前にちなんで『ココロノオト』なんてどう?」

「わあ、素敵!さすがお母さん、ありがとう!」

嬉しくて、感動して、思わずお母さんに抱きついちゃった。

「いつか、歌手として心音と一緒に歌えるのを楽しみにしてるからね。頑張って」

「うん!」

まだ始まったばかりのわたしの夢だけど、いつか絶対叶えるからね。

『ココロノオト』チャンネル、今日から始動です!