トップアイドルは白衣の天使に恋をする

「とりあえず、着替える?」

何事もなかったかのようにそう言われる

「っはい……」

差し出された服を受け取って、慌てて背を向ける

「ここで着替えるの?」

「えっ!?」

振り返ると、陽貴くんはくすっと笑っていた

「冗談洗面所使っていいよ」

……絶対わざとだ

「……っもう……」

小さく抗議しながら、逃げるように洗面所へ向かう

完全に遊ばれてる……!

着替えを終えてリビングに戻ると、

キッチンからいい香りが漂っていた

「座ってて」

エプロン姿の陽貴くんが、当たり前みたいにそう言う

「えっ……?」

テーブルには、すでに朝ごはんが並び始めている

トースト、スクランブルエッグ、サラダ、ココア

「簡単なやつだけど」

「……すごい……」

思わず本音が漏れる

アイドルで、こんなに忙しい人なのに

料理までできるの……?

「そんな顔する?」

振り返って、少し楽しそうに笑う

「だって……完璧すぎます……」

ぽつりと呟くと、

一瞬だけ、彼の動きが止まった

「……完璧じゃないよ」

小さくそう言って、椅子を引く

「はい、どうぞ」

向かいに座るよう促される

「いただきます……」

フォークを持つ手が、少しだけ震える

さっきの距離感がまだ残ってる

「緊張してる?」

「っしてません!」

即答してしまう

「ほんと?」

ニヤッと笑われる

……やっぱりこの人、絶対わざとだ

「顔に出てるよ」

そう言って、手を伸ばされる

指先が、そっと頬に触れる

「まだ赤い」

「〜〜っ/////」

反射的に顔を逸らす

「もう、からかわないでください……!」

「からかってないよ?」

さらっと返される

「可愛いなって思ってるだけ」

「っ……!」

ずるい

そういうの、さらっと言うの

「紗凪ちゃんってさ」

「思ってること全部顔に出るよね」

「そ、そんなこと……」

「あるよ」

即答

「だから分かりやすい」

視線が絡む

逃げられない

「今も、“この人優しいけどちょっと怖いかも”って思ってるでしょ?」

「っ!!」

図星すぎて言葉が出ない

「……顔、ほんと正直」

くすっと笑われる

でも――

その笑い方は、どこか楽しんでるようで

「でも安心して」

ふっと、少しだけ優しい声に戻る

「ちゃんと大事にするから」

「……え?」

一瞬、意味が分からなかった

でもそれ以上、何も言わない 

まるで、わざと余白を残すみたいに



…なに、それ……


ドキドキが止まらない

食事を終えて、時計を見る

「あっ……もうこんな時間……!」

「ほんとだ」

立ち上がる陽貴くん

「送るよ」

「いえっ!大丈夫です!」

これ以上一緒にいたら、心臓がもたない

「……そ?」

少しだけ間を置いて、

「じゃあ、また連絡する」

自然にそう言う

“また”が当たり前みたいに

「……はい」

小さく頷く

玄関まで送ってもらい、靴を履く

ドアの前

少しだけ、沈黙

「紗凪ちゃん」

「はい……?」

名前を呼ばれて顔を上げた瞬間――

コツン、と額を軽く弾かれた

「次は、ちゃんと準備して来てね」

「……っえ?」

一瞬、思考が止まる

「昨日みたいなのは、さすがに我慢きかないから」

ニヤッと笑う

完全に確信犯

「〜〜〜〜〜っ!!!!/////」

何も言い返せない

「いってらっしゃい」

最後は、いつもの優しい笑顔

「……い、いってきます……」

逃げるように外へ出る

ドアが閉まった瞬間、壁にもたれかかる


「……なにあの人……」


優しいのに、

意地悪で、

ちょっと怖くて――


でも

「……ずるい……」


好きになってしまいそうで

心臓が、ずっと落ち着かなかった