トップアイドルは白衣の天使に恋をする

紗凪side

ガタンガタンと静かに回る洗濯機の音だけが部屋に響いていた

目の前で回るそれを見つめながら、私は本気で絶望していた

なんでかって言うと――

下着を、上下とも洗濯機に入れてしまったからである

……終わった

完全に終わった

「……私、ほんとに何してるの……」

思わず小さく声が漏れる

お風呂に入る時のいつもの流れで、無意識に放り込んでしまった自分を殴りたい

しかも上下セットで

つまり今の私は――

ない

下着が、ない

「どうしよう……どうすればいいのこれ……」

頭を抱えていると、コンコン、と扉がノックされた

「紗凪ちゃん?大丈夫?」

陽貴くんの声

一瞬で心臓が跳ねる

「っ……はい、大丈夫です!今出ます!」

――もう、どうにでもなれ

覚悟を決めて、私は彼の服を借りたまま扉を開けた

服は思った以上に大きくて、ワンピースみたいに体をすっぽり包んでくれている

……助かったのか、助かってないのか分からない

「ごめん、小さい服選んだつもりだったんだけど……紗凪ちゃんにはちょっと大きかったね」

扉の前で彼が少し困ったように笑った

その顔がやけに優しくて、胸がきゅっとなる

「い、いえ……大丈夫ですお借りします……」

ぎこちなく頭を下げると、彼はふっと目を細めた

「うん似合ってる」

たったそれだけの言葉なのに、体温が一気に上がる

「ホットココア入れたから、飲んでて」

そう言って彼はキッチンを指さす

「あと、僕もお風呂入ってくるから、その間ドライヤーしてて」

ドライヤーを手渡される

「は、はい……」

彼がバスルームへ向かう背中を見送った瞬間、私はその場に崩れそうになった

……心臓、もたない

ソファに座ってココアを両手で包む

温かい

でも頭の中は全然落ち着かない

これ……今、何の状況……?

彼の家

彼の部屋

彼の服

そして、私――下着なし

「いやいやいや……!」

思わず声が出る

変な意味じゃないのに、変な意味にしかならない状況が怖すぎる

「乾燥機、まだかなぁ……」

ぽつりと呟いた声は、静かな部屋に吸い込まれていった

あと1時間

たった1時間なのに

こんなに長い1時間、人生であったっけ……?

私はココアを一口飲んで、そっと天井を見上げた

お願いだから……早く乾いて……
 
――そう願っている私の耳に、

シャワーの水音が、微かに聞こえた

心臓が、またうるさく鳴り始める