トップアイドルは白衣の天使に恋をする

食事が終わりロビーに降りてきた

もう少し一緒に居たかったな…

って!私は!何を考えてるの!

彼はアイドルで私は一般人

線引きはきちんとしなきゃだ!

ご飯に行けただけでも普通じゃありえないことだし

「ねぇ、もうすこし…

彼が何かを言いかけた途端

ザアアアアアアアア

「きゃ…っ?!」

雨が降ってきた

「ちょっ…陽貴くんっ…!」

引っ張られるまま、ロビーの外へと駆け出す

高級ホテルのエントランスの外は一瞬で景色が変わっていた

さっきまでの静かな夜景が、雨粒で一気に滲んでいく

「傘…っ!」

そう言いかけたけど、もう遅い

ザーッという音と一緒に、あっという間に視界が白くなるほどの雨

「ごめん、こっち!」

彼は迷いなく私の手を握ったまま、建物の脇の屋根付きのスペースへと走り込む

息が切れる

心臓がうるさいのは、走ったせいなのか、彼の手のせいなのか分からない

「はぁ…っ、びしょびしょ…」

思わず呟くと、彼がこちらを見て小さく笑った

「ごめん、ちょっと判断早かったね」

そう言いながらも、手はまだ離されていない

……気づいてしまった

指先が、ちゃんと絡まっている

「っ……陽貴くん、手……」

やっとそう言うと、彼は一瞬だけ目を丸くして、それから「あ」と小さく声を漏らした

「やば、ごめん」

そう言いながらも、すぐには離さない

ほんの一拍、間があってから、ゆっくり指を解く

その動作が、妙に丁寧で 

余計に意識してしまう

「寒くない?」

彼が上着を軽く脱ぎかける

「いえ、大丈夫です!本当に!」

慌てて首を振ると、彼は少しだけ困ったように笑った

「そういうとこ、ちゃんとしてるよね紗凪ちゃん」

その言い方が、なんだかずるい

雨音だけが静かに響く中で、二人の距離だけがやけに近い

「……急に降るとか、ほんと困るね」

そう言いながら彼は空を見上げる

濡れた髪が少しだけ額にかかって、その横顔がやけに綺麗で

さっきまでの“アイドル”とか“別世界の人”って感覚が、一瞬で曖昧になる

「……このまま、もうちょい雨弱くなるまで待とうか」

彼がそう言って、視線を戻す

その目が、さっきより少しだけ静かで、少しだけ近い

「紗凪ちゃん、今日さ」

「はい……?」

「帰したくないって思ったの、初めてかも」

雨音が、やけに大きく聞こえた