トップアイドルは白衣の天使に恋をする

「ありがとうございました」

タクシーを降りて時計を見ると19時50分

うん、ちょうどいい

ホテルの入口にはドアマンが立っていた


陽貴くんの名前を伝えると、静かにロビーへ案内される


このホテルは芸能人や政治家も利用する有名な場所で、警備も厳重だ

ほんとに、私ここ来ていいのかな…

少しだけ場違いな気がして、歩幅が小さくなる


ロビーに入った瞬間、空気が変わった

視線がふと一方向に集まる 

そこにいたのは、一際目立つ男性

後ろ姿だけで分かってしまう

それほどまでに“オーラ”が違った

立っているだけなのに、目を奪われる

……緊張してきた

心臓が少しずつ速くなる

こんな人と食事なんて、本当にいいのかな

私なんかが隣にいて浮かない?

髪もメイクも、もっとちゃんとすればよかったかも……

そんなことばかり考えて動けなくなる

「紗凪ちゃん」

その声で、時間が戻る

陽貴くんがこちらに気づいて歩いてくる

紺色のスーツに身を包み、髪はきちんと整えられていた

まるで“別の世界の人”みたいに見える

息をするのを忘れるほど、目が離せなかった

「紗凪ちゃん?大丈夫?」

目の前で声をかけられて、ようやく我に返る

「…っ、はいお待たせしてすみません」

声が少し震えてしまう

「ううん、全然待ってないよ」

優しく笑ったあと、彼の視線が少しだけ細くなる

「……でも顔色はちょっと悪いね体調悪い?」

心臓がドクドク鳴る

原因はあなたです、なんて言えるわけない

「いえ…少し、緊張してしまって」

正直にそう言うと、彼は一瞬だけ目を細めた

ロビーのあちこちから視線が刺さる

「なにあの人…」

「誰?あの子」

そんな声が遠くでざわつく

その中心にいるのは、陽貴くんだった

「実は僕も」

ふっと柔らかく笑う

「こんな綺麗な人を前にすると緊張するよ」

「紗凪ちゃん、本当に綺麗だね」

「ドレス、すごく似合ってる」

一瞬で頭が真っ白になる

ほんと、ずるい人…

顔が一気に熱くなる

たぶん今、相当ひどい色をしている

「茹でダコの紗凪ちゃんになっちゃったね」

くすっと笑いながら、彼が手を取る

「それも可愛いけど」

そのまま自然に、エスコートされるように歩き出す

……もう、心臓がもたない

でも、不思議と嫌じゃなかった

むしろこのまま、少しだけ時間が止まればいいのにと思ってしまう

「行こうか」

優しい声に導かれるまま、私達はレストランへ向かった