トップアイドルは白衣の天使に恋をする

「本当にありがとうございました」

そうこうしているうちに、マンションにたどり着いた。

「今日は大変だったね。ゆっくり休んでね」

優しい声でそう言いながら、陽貴くんは私を見つめた。

その視線がまっすぐで、逃げ場がないくらいなのに、不思議と怖くない。

「なにかお礼を…」

助けてもらった上に、家まで送ってもらったのに、何も返せていない気がして焦る。

「んー…じゃあ今度、僕とディナー行ってくれる?」

少しだけ考えたあと、さらっとそう言われた。

「ディナー…ですか?」

思わず聞き返してしまう。

心臓が、さっきから忙しい。

「いや?」

少しだけ目を細めて、彼が聞き返す。

その表情が、ほんの少しだけ寂しそうで。

胸の奥がきゅっとなる。

「いえっ…そんな訳ないです。むしろ…私なんかでいいんですか?」

「なんか、じゃないよ」

即答だった。

優しいのに、はっきりしている声。

「これ以上のお礼なんてないくらい、ちょうどいい」

ふっと笑ったその顔が、ずるいくらい綺麗で。

「紗凪ちゃんは、分からなくていいよ」

そう言って、そっと髪を撫でられた。

——ドキッ

一瞬で呼吸が止まる。

触れられた場所だけが、やけに熱い。

「……了解しました」

声が震えないように言うのがやっとだった。

「うん、いい子」

その一言で、また心臓が跳ねる。

「じゃあ連絡先、交換しよっか」

「え…?」

一瞬、思考が止まる。

アイドルと連絡先…いいの…?

そんな不安すら、彼の前だと薄れていく。

「日時とか場所、ちゃんと送るから」

そう言われると、断る理由なんて消えてしまった。

気づけば、自然に連絡先を交換していた。

「じゃあまた連絡するね。今日はちゃんと休んでね」

「はい…ありがとうございました」

ぺこっと頭を下げると、彼はふわっと優しく笑った。

「うん。またね、紗凪ちゃん」

その声だけが、胸の奥に残る。

振り返ると、彼はまだそこにいて。

エレベーターに乗る瞬間まで、ずっと見送ってくれていた。

その視線が離れたあとも、なぜか残っている気がした。

部屋に入って、ようやく息をつく。

なのに、心臓だけはまだ静かにならない。

今日、怖い思いしたはずなのに…

それなのに、頭に浮かぶのは彼の声と手の温度ばかり。

「ディナー…」

ぽつりと呟いた瞬間、自然と笑みがこぼれた。

嬉しいとか、楽しみとか。

そんな単純な言葉じゃ足りないくらい、胸が騒いでいる。

私、どうしちゃったんだろう…

そう思いながらも、止められなかった。