トップアイドルは白衣の天使に恋をする

「——ということがありまして」

佐野陽貴さんが、先ほどの出来事を師長さんに一通り説明してくれた。

師長さんの表情がみるみる険しくなる。

「そんなことが……?
一ノ瀬、怖い思いしたわね。大丈夫?」

優しく声をかけられて、小さく頷く。

「それから佐野くん、助けてくれて本当にありがとう。
あなたがいてくれて助かったわ」

「いえ、当然のことをしただけです」

陽貴さんは淡々とそう答えた。

「これは見過ごせない問題ね。
私は今から上層部に報告して対策を進めるわ」

師長さんはそう言うと、私の方を見た。

「一ノ瀬は今日はもう上がって。
……ひとりで帰れる?」

一瞬、言葉に詰まる。

またあの人に会ったら——

そう思うと、胸がぎゅっと締め付けられた。

でも梓は夜勤だし、頼れる人もいない。

「はい……」

そう答えかけた、その時。

「僕が送っていきます」

隣から、迷いのない声が聞こえた。

思わず顔を上げる。

「そう?じゃあ悪いけど、一ノ瀬のことお願いするわね」

師長さんはそう言い残し、足早にその場を去っていった。

……いいのかな。

助けてもらっただけじゃなくて、送ってもらうなんて。

戸惑いながら彼の方を見ると、目が合う。

「ひとりにさせないから。安心して」

ふっと優しく笑うその表情に——

ドクン、と心臓が大きく鳴った。

どうしてだろう。

安心したはずなのに、胸がぎゅっと苦しくなる。

……また、涙が出そうになる。

彼の隣にいると、不思議と気が緩んでしまう。

きっと——

彼の隣にいられる人は、すごく幸せなんだろうな。

そんなことを、ふと思ってしまった。

「……ありがとうございます」

小さく頭を下げる。

迷惑をかけたくない気持ちもある。

でも——やっぱり、まだ怖い。

だから私は、彼の言葉に甘えることにした。