トップアイドルは白衣の天使に恋をする

どのくらいの時間が経っただろうか。

ようやく涙が落ち着き、少しずつ呼吸も整ってきた。

彼はその間ずっと、何も言わずに優しく背中を撫でてくれていた。

「……すみま…せん。ありがとうございます」

声がまだ少し震える。

もし彼が来てくれなかったら——

そう考えただけで、また胸がざわついた。

小さく頭を下げる。

「謝らなくていいよ。怖い思いしたね」

そう言って、彼はそっと頬に触れ、残っていた涙を拭ってくれた。

その仕草があまりにも自然で、また胸がぎゅっと締めつけられる。

「こういうこと、よくあるの?」

低く落ち着いた声。

でも、その奥にわずかな怒りが滲んでいるのが分かった。

「いえ……こんなのは、今日が初めてです」

これまでにも軽く声をかけられることはあったけど——

こんな風に恐怖を感じたのは初めてだった。

「……そっか」

短く返した彼の表情が、少しだけ険しくなる。

「一応、証拠として動画は撮ってある。
訴えることもできるけど……どうする?」

その言葉に、少し迷う。

本当は——そうしたい。

でも。

「……いえ、大丈夫です」

首を横に振る。

「これ以上関わるの、ちょっと怖くて……」

正直な気持ちだった。

「うん、分かった」

彼はすぐに頷いた。

「でも、あいつをこのままにするわけにはいかないから。
そこは俺が対応しておく」

優しく、でもはっきりとした声。

任せていいんだと、自然と思えた。

「……ありがとうございます」

そう言うと、彼はふっと少しだけ表情を緩めた。

「今日はもう上がった方がいい」

そう言われ、私は小さく頷く。

状況の説明もあるため、彼と一緒にICUへ戻ることになった。

並んで歩くその距離が、さっきまでとはまるで違って感じた。

怖かったはずなのに——

今は、不思議と安心している自分がいた。