トップアイドルは白衣の天使に恋をする

紗凪side

「おつかれさまでした〜っ……はぁぁ」

18時になり3日目のシャドーイングが終わった。

ナースステーションへ戻った瞬間、奏くんが大きく息を吐きながら椅子にもたれかかった。

今日は急変対応もあったし、入退室も重なってかなり忙しかった。

見学だけでも相当疲れたと思う。

「奏くん、大丈夫?」

そう声をかけると、奏くんはぐったりしたまま私を見上げた。

「……一ノ瀬さんって、いつもあんな感じなんすか?」

「あんな感じ?」

「急変の時とかです。いやもう……すごすぎて」

そう言いながら頭を抱える。

「俺ほんと、ドラマのICUってもっとこう……
静かにピッピッしてるだけやと思ってました」

「ふふっ、そんな平和だったらいいんだけどね」

ICUは本当に何が起きるか分からない。

数秒で状況が変わる。

だからこそ、常に気を張っていないといけない。

「でも、一ノ瀬さん全然焦ってなかったじゃないですか」

「え、めちゃくちゃ焦ってたよ?」

「いやいやいや!あれで?!」

奏くんが勢いよく顔を上げる。

「先生への報告も、周りへの指示も全部完璧だったし!あの空気の中であんな動ける人初めて見ました」

そんな真っ直ぐ褒められると普通に恥ずかしい。

「そんなことないよ〜。周りのみんなが動いてくれるから成り立ってるだけ」

「またそうやって謙遜する……」

奏くんは呆れたように笑った。

「でも今日ほんとに思いました。一ノ瀬さんが僕の指導役で本当に良かったです」

「へ?」

「だって俺ら、絶対リアルなICU知らんまま演じてましたもん。今日見たこと全部、ちゃんと演技に落とし込みたい」

その目はすごく真剣だった。

この人、本当に努力家なんだな。

人気がある理由が少し分かる気がする。

「奏くんなら大丈夫だよ。すごく勉強してるの伝わってくるし」

そう言うと、奏くんは少し照れたように頭をかいた。

「いや〜……でも今日は普通に悔しかったっす」

「悔しい?」

「はい。なんもできなかったんで」

その言葉に、私は少し驚いた。

普通なら“怖かった”とか“大変だった”が先に出る場面だ。

でも奏くんは違った。

“できなかった”ことを悔しがってる。

「でもそれって、ちゃんと向き合って見てたってことだと思うよ」

「……」

「見てるだけでも怖いし、しんどい場面だったと思う。でも最後までちゃんと患者さん見てたでしょ?」

そう言うと、奏くんは少しだけ目を丸くした。

「……見てました」

「うん。だから大丈夫」

にこっと笑うと、奏くんは数秒固まったあと、ふっと顔を逸らした。

「……一ノ瀬さんって、ほんと罪っすね」

「え?」

「なんでもないです」

そう言いながら耳を赤くしている。

……熱でもあるのかな?

「奏くん顔赤いよ?今日ずっと立ちっぱなしだったし、しんどくない?」

慌てて額へ手を伸ばす。

すると。

「っ?!」

奏くんがビクッと肩を揺らした。

「え、え?!なに?!」
 
「いや近い近い近い!!」

ガタッと椅子ごと後ろへ下がる奏くん。

私は訳が分からずきょとんとしてしまう。

「熱あるかと思っただけなんだけど……」

「……それを無自覚でやるから怖いんすよ……」

奏くんはボソッと何か呟き、顔を覆った。

……?

意味が分からない。

でも。

「ふふっ、奏くんって面白いね」


そう笑うと、奏くんはさらに「うわ〜……」と頭を抱えていた。