トップアイドルは白衣の天使に恋をする

「そして、桜庭くんについてくれるのは——」

堀田師長が、少しだけ誇らしげに微笑む。

「看護師の一ノ瀬という子です。
全国的に見てもトップレベルの救急看護師で、うちの絶対的エースなのよ」

……トップレベル

「だから分からないことがあったら何でも聞くといいわ。
知識もスキルも性格も、全部完璧」

一拍置いて、

「……あ、あと顔もね」

くすっと笑う師長。

いや、それもう全部じゃん

心の中で軽くツッコむ。

一ノ瀬さん…ねぇ。

その名前を聞いた瞬間、

頭に浮かんだのは、あの夜の光景。

多分……あの人だ

根拠なんてない。

でも、なぜか確信に近いものがあった。

「ちょっと待ってね、今呼ぶわ」

そう言って、師長が振り返った——その時。

プルルルルル——

突然、鋭い音が鳴り響く。

「……っ」

空気が、一瞬で変わった。

赤く点滅するランプ。

“ホットライン”と書かれた電話。

なんだ、この緊張感。

さっきまでとは明らかに違う。

師長がすぐに受話器を取る。

その周りに、医師や看護師が自然と集まってくる。

誰も無駄な動きをしない。

「○○消防よりドクターヘリ要請——」

スピーカーから流れる、無機質な声。

「50代男性、登山中に約20m転落。意識不明——」

そして

「ドクターヘリ、出動します」

……ドクターヘリ

ドラマでしか聞いたことのない言葉。

なのに——

ここでは、それが“日常”みたいに動いている。

すげぇな……

そう思った、その時だった。

バタバタッ——

前方から、足音。

視線を向ける。


……あ


一瞬で分かった。

距離があっても、関係ない。

きた。

あの夜、命を繋いでいた人。

フライトスーツを着て、

迷いなくこちらへ走ってくる。

……やっぱり

息を呑む。

すれ違うスタッフたちが、一瞬だけ振り返る。

視線を奪われるのも無理はない。

目立ちすぎだろ。

綺麗とか、そういう次元じゃない。

“強さ”がある。

そのまま——

隣を見る。

陽貴さん。

優朔さん。

二人とも、気づいてる。

視線が完全に、彼女に固定されている。

「一ノ瀬、転落外傷だ。行くぞ」

低く、的確な声。

フライトドクターが指示を出す。

「はい」

迷いのない返事。

そのまま、スピードを落とすことなく駆け抜けていく。

——俺たちの、目の前を。

風が、ふわっと揺れる。

その瞬間。

パチッ——

目が、合った。

ほんの一瞬。

でも確かに、視線が交わった。

……気づいた?

いや、多分違う。

あの人の目は——

すぐに次の“命”へ向かっていた。

振り返ることもなく、

そのまま出口へと消えていった。