トップアイドルは白衣の天使に恋をする

奏side

朝8時ぴったり。

黒瀬さんが迎えに来た車に乗り込む。

はぁあ……

シートに身体を預けて、ひとつ息を吐く。

ちょっと緊張してきたかも。

ツアーとは違う種類の緊張。

初めてのドラマ。

しかも“医療現場”。

ちゃんとやらないとなぁ

軽く見ていい世界じゃないのは、なんとなく分かる。

ちゃんと見て、ちゃんと盗まないと

役としてじゃなくても、人として学べることが多そうだ。

車は静かに走り続け——

10分ほどで、目的地が見えてきた。

「うわ……」

思わず声が漏れる。

目の前に現れたのは、圧倒的な存在感を放つ巨大な建物。

でか……

県内最大規模の病院、

中央大学病院。

近くで見ると、想像以上だった。

「着きましたよー。降りてください」

黒瀬さんの声で現実に戻る。

車を降りると、案内されたのは“職員専用入口”。

裏口から入る感じかり

いかにも“関係者しか入れません”って雰囲気。

その入口の前に——

ひとりの人物が立っていた。

「ようこそ、black knightの皆さん。お待ちしていましたよ」

白衣を着た、穏やかな雰囲気の老人。

胸元の名札には——

“院長 七瀬 正俊”

え、院長?

ってことは……この病院で一番偉い人?

そんな人が直々に出迎えるって、どんだけ本気なんだこの案件。

「black knightの皆さん、ようこそ。
わしはこの病院の院長、七瀬と申します」

にこにこと、優しく笑う。

「どうぞ、ゆっくり見ていってくださいな」

…優しそう

もっとこう、堅い人かと思ってた。

なんて考えていると——

「初めまして。black knightと申します」

隣で陽貴さんが一歩前に出る。

「本日はお忙しい中、撮影のご協力ありがとうございます。
今日からよろしくお願い致します」

深く、丁寧に頭を下げた。

さすがだ。

こういう場面での立ち振る舞い、本当に上手だ。

自然すぎて、“作ってる感”が一切ない。

そりゃ人気出るよね。

「「「よろしくお願いします」」」

俺たちもそれに続いて頭を下げる。

院長は満足そうに頷いた。

「みなさん、とても礼儀正しいですねぇ。
安心しました」



なんか、いい現場になりそうだ。

でも——

ふと、横を見る。

陽貴さん。

いつも通りの顔。

でも、どこか——

ちょっとだけ、そわそわしてる?

ほんのわずかな違和感。

長く一緒にいるからこそ分かる、小さな変化。

……ああ、そっか

ここ、あの人の職場だもんね。

あの夜の“綺麗な看護師さん”。

「また会いたいなー」なんて、誰かが言ってたけど——

この人、一番思ってるでしょ

内心くすっと笑う。

面白くなりそう

俺は、そういう空気が結構好きだ。