トップアイドルは白衣の天使に恋をする


「で、監督から伝言預かってる」

黒瀬さんが資料を閉じて、こちらを見た。

「クランクインは1ヶ月後。
その前に、実際の現場を見てこいってさ」

現場?

「だから——急だけど、明日から5日間。
撮影場所でもある中央大学病院に入ってもらう」

——中央大学病院。

その言葉を聞いた瞬間。

思考が、一瞬止まった。

鼓動が、ドクンと大きく鳴る。

まさか……

「あれー!あのお姉さんの病院じゃない!?」

蒼依の声が、スタジオに響く。

「僕も同じこと思った」

優朔も静かに頷く。

「やっぱそうだよね!」

……やっぱり間違いない。

中央大学病院。

あの日、俺が出会った——

あの女性の、職場。

ドクン、ドクン……

会えるのか……?

もう一度。

あの人に。

マジで?

一気に体温が上がる。

気づけば、口元が緩んでいた。

「あれ〜?陽貴さんニヤけてる〜」

蒼依がにやにやしながら顔を覗き込んでくる。

「なんでっすかね〜?」

「ニヤけてねぇよ、アホ」

軽く小突いてごまかす。 

バレるわけねぇだろ

……いや、バレてたかもしれない。

「それより、明日から何すんだ?」

話を逸らすように黒瀬さんに聞く。

「シャドーイング。
医者や看護師、薬剤師の後ろについて、実際の動きや言葉を学んでもらう」

「もちろん医療行為は禁止。
あくまで“見ること”に集中して、役に落とし込め」

シャドーイング、ねぇ

ここまで本格的なのは初めてだ。

「監督もかなり気合い入ってる。
黒騎士が全員出るって聞いて、“絶対賞取る”ってさ」

黒瀬さんが苦笑する。

……ああ、やっぱり

頭に浮かぶのは、ひとりの人物。

高野監督。

以前、映画で一度だけ一緒に仕事をしたことがある。

妥協を一切許さない人。

現場では口も悪いし厳しい。

でも——誰よりも作品に真剣で、誰よりも熱い。

俺は嫌いじゃない。

むしろ、ああいう人間の方が信用できる。

「ってことはさ〜」

蒼依がにやっと笑う。

「ガチの救急現場見れるってことっすよね?」

「……そうなるな」

その言葉を聞いて——

また、あの光景が浮かぶ。

命を繋ぎ止めようとしていた、あの姿。

あの人も、いるのか

胸の奥が、強く鳴る。

期待と——少しの緊張。

もし会えたら

なんて、声をかける?

そもそも——

覚えてるのか?

…いや

あの状況だ。

覚えてるはずがない。

それでも——

会いたい。

その気持ちだけは、はっきりしていた。



明日。



俺は——



もう一度、あの人に会いに行く。