トップアイドルは白衣の天使に恋をする

後日談

「——『ドクターズ〜救命最前線〜』最終話視聴率、20.8%を記録——」

テレビから流れてきたニュースに、私は思わず目を丸くした。

「すご…い」

空いた口が塞がらない。

隣でソファに寝転がっていた陽貴くんが、小さく笑う。

今の時代で20%超えなんて、ほとんど聞かない。

しかも。

『主題歌“BLEED” ミリオン突破』

「ほんとにすごい……」

ぽつりと呟くと。

陽貴くんが私を見る。

「そんなすごい奴が彼氏なんて惚れ直した?」

「うん、惚れ直しちゃった」

そう返すと、陽貴くんがくすっと笑った。

今日は珍しく二人とも休みだった。

だからこうして、部屋でゆっくり過ごしている。

テーブルの上には、小さなケーキ。

コンビニで買ったスパークリングジュース。

豪華なパーティーなんかじゃない。

でも。

こういう時間が、すごく好きだった。

「はい」

陽貴くんがグラスを差し出してくる。

私もそれを受け取る。

「ドラマ大ヒットおめでとう」

そう言うと。

陽貴くんが少し照れたみたいに笑った。

「ありがとうございます」

そして。

軽くグラスを合わせる。

カチ、と小さな音。

その瞬間。

なんだか全部報われた気がした。

忙しかった日々。

何度もあった急変。

撮影指導。

ヘリ出動。

会えない時間。

事故。

不安。

それでもみんなで走り抜けた数ヶ月。

その全部が、ちゃんと形になった。

「……紗凪のおかげでもあるからね」

突然そう言われて、顔を上げる。

「え?」

「現場でめちゃくちゃ助けられてたし」

「みんな言ってた」

「一ノ瀬さんいなかったらここまでリアルになってないって」

まっすぐな目。

私は思わず苦笑した。

「私は少し手伝っただけだよ」

「いや、かなり支えてくれてた」

陽貴くんはそう言いながら、ソファへ深く座り直す。

「なんかさ」

「この作品、俺の中でも特別になった」

静かな声だった。

「今まで色んな仕事してきたけど」

「こんなに“終わってほしくない”って思った現場初めてかも」

その理由を、私は知ってる。

きっと。

ドラマだけじゃなかった。

この作品があったから、私たちは出会った。

私はそっと笑う。

「でも終わっても、みんな繋がってる感じする」

「たしかに」

「奏くん毎日グループLINEうるさいし」

その瞬間。

陽貴くんが吹き出した。

「マジでうるさい」

「今日も“視聴率男”とか送ってた」

「見た見た」

二人で笑う。

そんな空気が心地いい。

すると。

陽貴くんがふいに私を見た。

「……紗凪」

「ん?」

「ありがとう」

その声がやけに優しかった。

「俺、紗凪いなかったら途中で潰れてたかも」

「帰る場所あったから頑張れた」

その言葉に、胸がじんわり熱くなる。

私は小さく息を吐いて、陽貴くんの肩へ寄りかかった。

陽貴くんが自然みたいに私を抱き寄せる。

静かな部屋。

テレビではまだドラマ特集が流れている。

今の私には、それより隣の体温の方が大切だった。

「次はワールドツアーなんだね…」

私がそう言うと。

陽貴くんが笑う。

「うん」

「また忙しくなる」

「体調崩さないでよ」

「紗凪もね」

お互いそう言い合って。

また少し笑った。

世界中に愛されるアイドル。

命の最前線で働く看護師。

生きる世界は違う。

それでも。

どんなに忙しくても。

どんなに離れていても。

ちゃんと帰ってくる場所は、ここにある。

陽貴くんがそっと私の頭へキスを落とす。

私は小さく目を閉じた。

——これから先も。

きっと私たちは、それぞれの世界で戦いながら。

同じ場所へ帰ってくる。


ほんとうにend...