トップアイドルは白衣の天使に恋をする

楽屋の中は、ライブ直後とは思えないくらい賑やかだった。

蒼依くんはずっと喋ってるし。

奏くんは「うるさい」って言いながらも楽しそうだし。

優朔さんはスタッフさんに止められながら肩を冷やしていて、その横で梓が「無理しすぎです」と半分呆れながら世話を焼いている。

その光景が、なんだかすごく愛しかった。

事故があって。

撮影中止になって。

色んな不安があった。

でも。

ちゃんとみんなでここまで来れた。

その事実が、胸にじんわり広がっていく。

すると。

陽貴くんが後ろからそっと近づいてきた。

「紗凪」

呼ばれて振り向く。

近い。

ライブ後だからか、少し熱を持った身体。

汗と香水が混ざった匂い。

心臓がうるさくなる。

「……どうだった?」

さっきも聞かれたのに。

また少し不安そうに聞いてくる。

私は陽貴くんを見上げた。

ステージの上では、あんなに眩しかった人。

何万人を惹きつけて。

会場全部を支配して。

本当に“アイドル”だった。

正直。

少しだけ思った。

住む世界が違うって。

私は病院で働く普通の看護師で。

陽貴くんは、こんな大きな世界で輝く人。

でも。

今こうして私を見る目は。

家で甘えてくる時と同じだった。

「すごくかっこよかった」

そう言うと。

陽貴くんが少し目を丸くする。

「でも」

私は小さく笑った。

「やっぱりいつもの陽貴くんだった」

その瞬間。

陽貴くんがふっと笑う。

すごく安心したみたいな顔。

「よかった」

ぽつりと落ちた声。

「紗凪に遠く感じられたら嫌だなって、ちょっと思ってた」

その本音に、胸がぎゅっとなる。

私はそっと陽貴くんの手を握った。

「遠くないよ」

「ちゃんと、帰ってくる場所ここでしょ?」

そう言った瞬間。

陽貴くんが一瞬息を止める。

そして。

困ったみたいに笑った。

「……ほんとずるい」

「え?」

「そういうこと普通に言うから」

次の瞬間。

ぎゅっと抱きしめられる。

「陽貴くんっ」

「ちょっとだけ」

そう言いながら、肩へ額を押し付けてくる。

その姿はさっきまでドームを沸かせていたアイドルとは思えないくらい、甘えたで。

でも私は、そんな陽貴くんが好きだった。

「おーい」

後ろから奏くんの声。

「また二人の世界入ってる」

「もう隠す気ゼロだな」

蒼依くんも笑う。

すると優朔さんが、肩を押さえながら苦笑した。

「まぁでも、この二人見てると安心しますよね」

その言葉に。

梓が小さく頷く。

みんなが笑う。

その空気が、たまらなく温かかった。

きっとこれからも。

忙しくて。

会えなくて。

不安になる日もある。

命と向き合う仕事も。

何万人の期待を背負う仕事も。

簡単じゃない。

それでも。

こうして“帰ってこれる場所”がある限り。

私たちは大丈夫なんだと思う。

陽貴くんがそっと私の手を握る。

私はその手を握り返した。

楽屋の外では、まだファンの歓声が響いている。

ステージの光。

ICUのモニター音。

まるで違う世界。

でも。

そのどちらも、今の私たちには大切な場所だった。

——国民的アイドルと救急看護師。

それぞれの世界で戦いながら。

それでもちゃんと、同じ場所へ帰ってくる。

そんな未来が。

これからも、ずっと続いていきますように。





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