トップアイドルは白衣の天使に恋をする

ライブが終わっても。

会場の熱気はなかなか冷めなかった。

「やばかった……」

梓がまだ放心したまま呟く。

「優朔さん普通に踊ってたんだけど」

「いやほんと無理しすぎ」

「でもかっこよかった……」

完全に落ちてる。

私は思わず笑ってしまった。

正直、私もまだ心臓が落ち着いていなかった。

ライブの余韻がすごい。

ステージの上の陽貴くんが、頭から離れない。

あんな顔もするんだ。

あんな空気を纏うんだ。

知らない陽貴くんをたくさん見た気がした。

するとその時。

「一ノ瀬様、七瀬様でしょうか?」

後ろから声をかけられる。

振り向くと、黒いスタッフパスを下げた男性スタッフ。

「あ、はい」

「こちらへどうぞ」

丁寧に頭を下げられる。

梓と顔を見合わせた。

「……え?」

スタッフさんは少し笑う。

「メンバーから伺っております」

その瞬間。梓が小声で。

「やば」

完全に挙動不審。

私は苦笑しながらスタッフさんについていく。

関係者通路。

さっきまでの歓声が嘘みたいに静かだった。

すれ違うスタッフ達が慌ただしく動いている。

ライブ直後特有の空気。

そこを進んでいくうちに。

急に緊張してきた。

「……なんかすごい場所来ちゃった」

私が小さく呟くと梓も珍しく少し緊張した顔をする。

「待って、優朔さん普通にいる?」

「いるでしょ」

「無理なんだけど」

「さっきまで“青ペンラ最高!”とか言ってた人とは思えない」

「うるさい」

笑っていると。

スタッフさんがある扉の前で止まった。

“BLACK KNIGHT”

大きく貼られたプレート。

その瞬間。

急に現実感が増す。

「こちらです」

スタッフさんがノックをする。

「メンバーの皆さん、一ノ瀬様と七瀬様お連れしました」

すると中から。

「はーい!」

聞き慣れた声。

次の瞬間。

ガチャッと扉が開く。

「紗凪!」

ライブ直後とは思えない勢いで飛び出してきたのは、陽貴くんだった。

まだステージ衣装のまま。

髪も少し汗で濡れていて。

でも。

キラキラしたオーラがまだ抜けていない。

私は思わず少し見惚れる。

すると陽貴くんが、そんな私を見て嬉しそうに笑った。

「どうだった!?」

完全に大型犬。

目がキラキラしてる。

「…本当に、すごかった」

それしか言えなかった。

本当にそれくらいしか言葉が出ない。

すると陽貴くんが一瞬目を丸くして。

次の瞬間、めちゃくちゃ嬉しそうな顔をした。

「やば、今めっちゃ嬉しい」

そしてそのまま、当然みたいに私の手を握る。

「ちょ、陽貴さん」

後ろから奏くんの声。

「お前ステージ降りた瞬間それかよ!」

「彼女最優先なんで」

「おーい!ついに認めたぜー!」

楽屋の中が一気に笑いに包まれる。