トップアイドルは白衣の天使に恋をする

その日は、久しぶりにちゃんと“普通の休日”を過ごした。

芸能人とICU看護師。

お互い仕事が忙しくて。

会えても短時間だったり、どちらかが疲れ切っていたり。

だからこうして一日一緒にいられること自体が、すごく貴重だった。

まずは少し遅めのランチ。

陽貴くんが「今日は絶対ゆっくり食べる」って言って、個室のお店を予約してくれていた。

「うまっ」

幸せそうに食べる顔を見て、思わず笑ってしまう。

「そんなお腹空いてたの?」

「最近ずっとロケ弁」

「あー……」

それはしんどい。

「紗凪のご飯食べたい」

真顔で言われてまた笑う。

映画館では、隣に座った瞬間からずっと手を繋がれていた。

暗くなると、さらにぴったりくっついてくる。

「近い」

小声で言うと。

「恋人なので」

当然みたいに返される。

その言い方がずるい。

映画の途中。

ふと隣を見ると、陽貴くんがスクリーンじゃなくて私を見ていた。

「……なに?」

「いや」

「紗凪と映画館来れる日来るんだなって」

その声があまりにも自然で。

胸がぎゅっとなる。

そのあとスーパーへ寄って夜ご飯の買い出し。

普通のカップルみたいに並んで歩いて。

「これいる?」

「紗凪トマト好きじゃん」

「覚えてたの?」

「当たり前」

そんな会話をしながらカゴに食材を入れていく。

ただそれだけなのに。

ものすごく幸せだった。

芸能人の陽貴くんじゃなくて。

ステージの上のキラキラした人じゃなくて。

隣で「今日何作る?」って笑ってる、恋人の陽貴くん。

そんな時間が嬉しくて仕方なかった。

家へ帰る頃には、もう外は暗くなっていた。

買ってきた荷物を置いて。

「ちょっと休憩……」

ソファへ座った瞬間。

「待ってました」

そう言いながら、陽貴くんが即座にくっついてくる。

「っ、近い近い」

「は?無理に決まってる。どんだけ我慢したと思ってんの」

即答。

そしてそのまま、当然みたいに私の膝へ頭を乗せた。

「ちょっ…」

「疲れてるから許して」

有無を言わせない。

むしろさらに抱きついてくる。

「今日の紗凪成分まだ足りない」

「一日一緒にいたのに?」

「足りない」

真顔だった。

思わず笑う。

すると陽貴くんが、私のお腹へぎゅっと腕を回した。

「……今日めちゃくちゃ幸せ」

ぽつり。

小さく落ちた声。

その声があまりにも穏やかで。

私はそっと陽貴くんの髪を撫でた。

「私も」

そう返すと。

陽貴くんがゆっくり目を閉じる。

「なんかさ」

「こういう普通のこと、俺ずっと憧れてた」

「普通?」

「スーパー行ったり」

「映画見たり」

「帰ってきてだらだらしたり」

そこまで言って少しだけ笑う。

「紗凪とだと、全部特別になる」

その言葉に、胸がじんわり熱くなる。

すると陽貴くんが突然身体を起こした。

「……充電切れた」

「え?」

次の瞬間。

ぎゅううっと抱きつかれる。

「紗凪補給」

「なにそれ」

「今日ずっと幸せだった反動で離れたくない」

完全に甘えモード。

肩へ顔を埋めながら、ずっとくっついてくる。

「夜ご飯作れないよ?」

「あと10分」

「さっきも10分って言った」

「じゃあ15分」

「増えてる」

くすくす笑うと。

陽貴くんが少しだけ顔を上げた。

その目がやけに優しくて。

「……好き」

不意打ちみたいに落とされる。

心臓が跳ねた。

「今日ずっと思ってた」

「紗凪といると、帰ってきたって感じする」

静かな声。

でも真っ直ぐで。

私は少し照れながら、陽貴くんの頬へ触れた。

「……私もだよ」

そう言った瞬間。

陽貴くんが嬉しそうに笑った。