優朔side
入院して3日目。
夜のICUは、不思議なくらい静かだった。
昼間みたいな慌ただしさはない。
でも完全に静かというわけでもなくて。
一定のリズムで鳴るモニター音。
人工呼吸器の作動音。
遠くで聞こえるスタッフの足音。
その全部が混ざって、独特の空気を作っている。
……眠れない。
右肩はズキズキ痛むし、肋骨は呼吸するたび地味に響く。
少し体勢を変えようとして。
「っ……」
浅く息を呑んだ瞬間。
「神崎さん?」
すぐ横から声がした。
担当の若いICUナースだった。
まだ少し緊張が抜けない感じの子。
「大丈夫です」
反射でそう答える。
でも。
モニターのSpO2がじわっと下がっていく。
「呼吸浅くなってますね……」
ナースが不安そうにモニターを見る。
「苦しくないですか?」
「まぁ……ちょっとだけ」
そう答えた瞬間。
ピッ、とアラームが鳴った。
SpO2 90。
若いナースの顔が強張る。
「先生呼びます!」
慌ててPHSを取る姿に、逆に申し訳なくなる。
「いや、そんな大丈夫——」
言いかけた瞬間。
胸がズキッと痛んだ。
深く吸えない。
……普通にしんどい。
「ERにも相談入れます」
ナースがかなり焦った声で言う。
そこまで大事なのかと思った時。
数分後。
ICUの扉が開いた。
「ERです」
聞き覚えのある声。
そっちを見る。
そこにいたのは——七瀬さんだった。
「あ」
思わず声が出る。
梓さんはカルテを確認しながら、ベッドの横へ来た。
「……こんばんは」
少し柔らかい声。
俺が小さく笑う。
「また会いましたね」
「ですね」
梓さんも少しだけ笑った。
「でも会いたくて来たわけじゃないですよ?」
その言い方がどこか軽くて、少し空気が和らぐ。
「ちょっと呼吸苦出てるって聞いたので」
そう言いながらモニターへ視線を向ける。
「SpO2下がってますね」
仕事モードの顔。
若いICUナースへも、
「大丈夫大丈夫、ちゃんと早めに気づけてるからね」
と優しく声をかけている。
その一言だけで、後輩ナースの顔が少し安心した。
……すごいな。
入院した時はテキパキしてる人って印象だったけど。
ちゃんと周り見てるし気遣いもすごい。
「神崎さん」
梓さんがこっちを見る。
「苦しいですか?」
少し迷ってから答える。
「……ちょっと息吸いにくいです」
「ですよねぇ」
その返しが妙に優しかった。
「痛みで呼吸浅くなってるかも」
そう言いながら呼吸音を確認していく。
その手つきが落ち着いていて、不思議と安心する。
「無理して“大丈夫”って言わなくていいですからね」
「……はい」
「入院した時より素直になりましたね」
少し笑いながら言われた。
「我慢するタイプだなーって思ってました」
図星すぎる。
思わず苦笑すると、また少し胸が痛む。
「あー、笑わないでください」
梓さんが困ったみたいに言う。
「肋骨響くでしょ」
「……はい」
「今から鎮痛追加入ると思うので、もうちょっと楽になりますよ」
その声がやけに落ち着く。
この人、患者を安心させるのが上手いんだろうな。
変に大丈夫大丈夫って誤魔化さない。
でもちゃんと寄り添ってくれる。
「今日は一ノ瀬休みなんですよ」
ぽつりと梓さんが言う。
「あ、そうなんですね」
「だから代わりに様子見に来ました」
さらっと言われたその言葉が、なんだか少し嬉しかった。
「……ありがとうございます」
そう言うと。
梓さんが少しだけ目を細める。
「ちゃんと頼ってくれる患者さんの方が助かります」
その言い方が、すごく自然で。
気づけば俺は、さっきまでより少しだけ肩の力が抜けていた
入院して3日目。
夜のICUは、不思議なくらい静かだった。
昼間みたいな慌ただしさはない。
でも完全に静かというわけでもなくて。
一定のリズムで鳴るモニター音。
人工呼吸器の作動音。
遠くで聞こえるスタッフの足音。
その全部が混ざって、独特の空気を作っている。
……眠れない。
右肩はズキズキ痛むし、肋骨は呼吸するたび地味に響く。
少し体勢を変えようとして。
「っ……」
浅く息を呑んだ瞬間。
「神崎さん?」
すぐ横から声がした。
担当の若いICUナースだった。
まだ少し緊張が抜けない感じの子。
「大丈夫です」
反射でそう答える。
でも。
モニターのSpO2がじわっと下がっていく。
「呼吸浅くなってますね……」
ナースが不安そうにモニターを見る。
「苦しくないですか?」
「まぁ……ちょっとだけ」
そう答えた瞬間。
ピッ、とアラームが鳴った。
SpO2 90。
若いナースの顔が強張る。
「先生呼びます!」
慌ててPHSを取る姿に、逆に申し訳なくなる。
「いや、そんな大丈夫——」
言いかけた瞬間。
胸がズキッと痛んだ。
深く吸えない。
……普通にしんどい。
「ERにも相談入れます」
ナースがかなり焦った声で言う。
そこまで大事なのかと思った時。
数分後。
ICUの扉が開いた。
「ERです」
聞き覚えのある声。
そっちを見る。
そこにいたのは——七瀬さんだった。
「あ」
思わず声が出る。
梓さんはカルテを確認しながら、ベッドの横へ来た。
「……こんばんは」
少し柔らかい声。
俺が小さく笑う。
「また会いましたね」
「ですね」
梓さんも少しだけ笑った。
「でも会いたくて来たわけじゃないですよ?」
その言い方がどこか軽くて、少し空気が和らぐ。
「ちょっと呼吸苦出てるって聞いたので」
そう言いながらモニターへ視線を向ける。
「SpO2下がってますね」
仕事モードの顔。
若いICUナースへも、
「大丈夫大丈夫、ちゃんと早めに気づけてるからね」
と優しく声をかけている。
その一言だけで、後輩ナースの顔が少し安心した。
……すごいな。
入院した時はテキパキしてる人って印象だったけど。
ちゃんと周り見てるし気遣いもすごい。
「神崎さん」
梓さんがこっちを見る。
「苦しいですか?」
少し迷ってから答える。
「……ちょっと息吸いにくいです」
「ですよねぇ」
その返しが妙に優しかった。
「痛みで呼吸浅くなってるかも」
そう言いながら呼吸音を確認していく。
その手つきが落ち着いていて、不思議と安心する。
「無理して“大丈夫”って言わなくていいですからね」
「……はい」
「入院した時より素直になりましたね」
少し笑いながら言われた。
「我慢するタイプだなーって思ってました」
図星すぎる。
思わず苦笑すると、また少し胸が痛む。
「あー、笑わないでください」
梓さんが困ったみたいに言う。
「肋骨響くでしょ」
「……はい」
「今から鎮痛追加入ると思うので、もうちょっと楽になりますよ」
その声がやけに落ち着く。
この人、患者を安心させるのが上手いんだろうな。
変に大丈夫大丈夫って誤魔化さない。
でもちゃんと寄り添ってくれる。
「今日は一ノ瀬休みなんですよ」
ぽつりと梓さんが言う。
「あ、そうなんですね」
「だから代わりに様子見に来ました」
さらっと言われたその言葉が、なんだか少し嬉しかった。
「……ありがとうございます」
そう言うと。
梓さんが少しだけ目を細める。
「ちゃんと頼ってくれる患者さんの方が助かります」
その言い方が、すごく自然で。
気づけば俺は、さっきまでより少しだけ肩の力が抜けていた
