トップアイドルは白衣の天使に恋をする

ICUのカンファレンススペース。

優朔さんの検査画像を見ながら、担当医が説明をしていた。

「幸い、頭部外傷はありません」

「ただ、肺挫傷があるので呼吸状態は数日しっかり見ます」

「右鎖骨骨折と肋骨骨折もあるので、痛みはかなり強いと思います」

モニター画像を切り替えながら、淡々と説明が続く。

陽貴くんたちは真剣な顔で聞いていた。

いつものふざけた空気は全くない。

「入院期間は?」

蒼依くんが聞く。

「最低でも1週間程度は経過を見たいですね」

「肺の状態次第では延びます」

その言葉に、みんな静かに頷いた。

「……よろしくお願いします」

そう言って、陽貴くんは深く頭を下げた。

その姿を見て、少し胸が熱くなる。

芸能人とか。

人気アイドルとか。

そういうの全部抜きで。

ただ、大事な仲間を心配してる顔だった。

説明が終わると、メンバーたちはもう一度優朔さんのところへ顔を出し、それぞれ声をかけて帰る流れになった。

「絶対安静だからな」

「勝手に退院しちゃだめっすからね」

「ちゃんと飯食ってくださいね」

口調は軽いのに、みんな本気で心配してる。

優朔さんも苦笑しながら、

「はいはい」

と返していた。

その後。

エレベーターホール近くまで見送りに出る。

すっかり夜になり病院は静かだった。

スタッフの足音だけが時々響く。

メンバーが先にエレベーターへ向かう中。

少しだけ、陽貴くんと二人になる時間ができた。

「……ありがとうな、」

ぽつりと陽貴くんが言う。

「陽貴くんこそ」

「今日は色々ありすぎたでしょ」

そう言うと。

陽貴くんが小さく笑った。

でも。

その笑顔は少しだけ弱かった。

「……正直、めちゃくちゃ怖かった」

低い声。

私は黙って隣を見る。

「倒れてくる瞬間見えたし」

「血もすごかったし」

「優朔動かなかったから、一瞬ほんとにやばいって思った」

その言葉に、胸が少し締め付けられる。

きっと現場にいた陽貴くんたちの方が、よほど怖かった。

何もできず見てるしかなかったんだから。

「でも」

私はそっと言う。

「ちゃんとここまで来れたから」

「状態も落ち着いてる」

「だから大丈夫」

そう伝えると。

陽貴くんが静かに息を吐いた。

「……紗凪がいると安心する」

その声がやけに真っ直ぐで。

思わず胸が熱くなる。

「梓もいるし、ちゃんとみんなで見てるから」

「うん」

陽貴くんが頷く。

そして。

そっと私の手を握った。

ほんの一瞬だけ。

「……ありがと」

小さな声。

でもその一言に、いろんな感情が詰まってる気がした。

私はその手を軽く握り返す。

「任せて」

そう言うと陽貴くんがふっと笑った。

その時。

遠くから奏くんの声。

「陽貴さんー!いきますよー!」

「はいはい」

陽貴くんが少し面倒そうに返事をする。

でも離れる前。

もう一度だけ私を見る。

「紗凪も無理しないで」

優しい声。

私は小さく頷いた。

「陽貴くんもね」

少しだけ目を細めた陽貴くんは、名残惜しそうにしながらもエレベーターへ向かっていった。

閉まる扉の向こう。

最後までこっちを見ていた姿に。

私は小さく笑ってから、再びICUへ戻った。