トップアイドルは白衣の天使に恋をする

優朔の入院対応がひと通り終わる頃には、ICUも少しだけ落ち着きを取り戻していた。

モニター音だけが静かに響く。

「SpO2安定してきたね」

紗凪がモニターを見ながら呟く。

「鎮痛効いてきたかな」

私は点滴速度を確認しながら頷いた。

ベッド上の優朔は、さっきより明らかに呼吸が楽そうだった。

それでも少し身体を動かすだけで顔をしかめる。

肋骨ってほんと地味にきつい。

しかも鎖骨もやってる。

「痛みどうですか?」

紗凪がもう一度確認する。

「……さっきよりは」

「それもたぶん嘘ですね」

即答。

優朔が苦笑する。

「なんで分かるんですか」

「ナースなめないでください」

さらっと返す紗凪。

すると優朔が小さく笑った。

「陽貴が一ノ瀬さん怖いって言う理由分かった気がする」

「そんなこと言ってるんですか?」

「めちゃくちゃ言ってます」

「あと“でも優しいと可愛すぎる”もセットで」

その瞬間。紗凪の動きが少しだけ止まった。

「陽貴くんってば……」

耳がほんのり赤い。

珍しい。思わず笑いそうになる。

その空気を見ながら、優朔が少し楽しそうに目を細める。

……この人。

たぶん周りを見るのが本当に好きなんだろうな。

自分が怪我して入院してるのに周囲の空気の方を気にしてる。

「今日は絶対安静ですからね」

私はカルテ入力しながら念を押す。

「勝手に起きない」

「はい」

「痛くても我慢しない」

「はい」

「点滴抜いて逃走とか論外です」

「俺そんなタイプに見えます?」

「芸能人ってたまにいるんですよ」

そう言うと優朔が少し笑った。

「それ陽貴ならやりそう」

「やりそうですね」

紗凪が真顔で頷く。

思わず吹き出した。

すると優朔もつられて笑う。

でもすぐ、

「っ……」

肩と胸に響いたのか顔をしかめた。

「だから笑わないでくださいって」

紗凪が呆れたように言う。

「いやでも、なんか……」

優朔が呼吸を整えながら小さく笑う。

「ここ安心します」

その言葉に、少しだけ空気が止まった。

ICUって普通は安心する場所じゃない。

怖い場所だ。

機械音ばかりで。
重症患者ばかりで。
家族だって泣いてることが多い。

でも。

この人は“安心する”って言った。

それはきっと紗凪がいて。

私たちが普通に接していて。

必要以上に特別扱いしないから。

「それならよかったです」

紗凪が柔らかく笑う。

その表情を見た瞬間。

優朔の肩から少し力が抜けたのが分かった。

たぶんこの人、今までずっと気を張ってたんだ。

芸能人として。

黒騎士のメンバーとして。

周りを安心させる側で。

でも今だけは少しだけ“患者”になれてる。

そんな気がした。

そして私は。

そんな優朔を見ながら、ふと思う。

……ほんと、不思議な人。

静かなのに。

気づけば空気の中心にいる。

無理して目立とうとしてるわけじゃないのに。

自然と周りを和らげる。

きっと周りからも慕われている人なんだろうな。