トップアイドルは白衣の天使に恋をする

ストレッチャーがゆっくりICUへ運ばれていく。

エレベーターの中。

優朔は静かだった。

鎮痛が少し効いてきたのか、さっきより呼吸は落ち着いている。

それでも右肩を庇うように身体を固定したまま、じっと天井を見ていた。

「しんどかったら言ってくださいね」

声をかけると、

「はい」

素直な返事。

本当にこの人、変に扱いやすい。

そんなことを考えているうちにICUへ到着する。

自動ドアが開く。

途端に聞こえるモニター音。

見慣れた空気。

「外傷上がります」

スタッフへ声をかける。

するとすぐにこちらへ向かってくる人影。

「梓!」

紗凪だった。

その表情を見た瞬間、少しだけ安心する。

たぶんずっと気が気じゃなかったんだろう。

でも優朔の状態を見た瞬間には、もう完全にICUナースの顔になっていた。

「バイタルは?」

「SpO2 95、酸素2L。右鎖骨骨折、肋骨ヒビ、右肩裂傷縫合済み。肺挫傷軽度」

「了解」

返事が速い。

そのまま自然な動きでモニター装着の確認に入る。

「優朔さん、ICU着きましたよ」

声のトーンが柔らかい。

でも無駄がない。

優朔が少し目を向ける。

「……一ノ瀬さん」

「災難でしたね」

紗凪が苦笑する。

すると優朔も少しだけ笑った。

「ほんとですよ」

でもその直後、肩へ響いたのか眉を寄せる。

「あーもう、笑わないでください」

紗凪がすぐ言う。

そのやり取りを見て、思わず笑いそうになった。

なんか空気が自然なのだ。

撮影の時に何度も会ってるんだろう。

そこに変な壁がない。

「入院とります」

紗凪がカルテを開きながら椅子を引く。

「名前と生年月日確認しますね」

仕事モード。

さっきまで友人みたいに話していたのに、切り替えが早い。

優朔もちゃんとそれに合わせる。

「神崎優朔です。19××年——」

入力しながら紗凪が状態確認を続ける。

「痛み10段階でどれくらいですか?」

「……5?」

「絶対もっとありますよね」

「…バレます?」

「顔色見たら分かります」

即答。

すると優朔が少し苦笑した。

「一ノ瀬さんも結構厳しい」

「あたりまえですよ〜」

笑いながら返す紗凪。

その様子を見ながら、私は点滴ルートを整理していく。

でも。ふと気づいた。

優朔。

さっき救急外来にいた時より、少しだけ表情が柔らかい。

安心してる。

たぶん知ってる顔がいるから。

「陽貴くんたちには私から状態伝えておきますね」

紗凪がそう言うと、優朔は小さく息を吐いた。

「お願いします」

その声が、少しだけ力が抜けて聞こえた。

ずっと張ってたんだろうな。

撮影現場。

救急搬送。

処置。

慣れない環境。

痛み。

それでも周りを気遣って。

空気を和らげて。

今ようやく少し安心したんだろう。

「今日は安静ですからね」

紗凪が釘を刺す。

「動いたら梓と一緒に怒ります」

「連携怖」

優朔が小さく呟く。

思わず吹き出した。

「当然です」

「患者さんなんで」

私がそう言うと。

優朔は少し困ったみたいに笑った。

でも。その空気が、なんだか心地よかった。