縫合は思っていたより長引いた。
裂傷が深い。
しかも右肩。
少し動くだけでも傷が引っ張られる場所だ。
「ちょっと響きますよー」
ドクターが声をかけながら針を通す。
その瞬間。
優朔の指先がわずかにシーツを握った。
でも声は出さない。
「……っ」
小さく息を呑むだけ。
「我慢強いですね」
思わずそう言うと。
優朔が苦笑した。
「我慢には…なれてます」
「痛い時は言ってください」
「じゃあちょっと痛いです」
「“ちょっと”じゃない顔してます」
そう返すと、また少し笑う。
ほんとこの人は。
痛いくせに空気を和ませようとする。
縫合が終わる頃には、優朔の額にはうっすら汗が滲んでいた。
鎮痛は入っている。
それでも完全には抑えきれないのだろう。
「先生、鎮痛もう少し増やしますか?」
そう聞くと。
「あぁ、助かる」
先生の返事を聞き、私は鎮静剤の量を調節する。
「気分悪くないですか?」
「大丈夫です」
「吐き気は?」
「ないです…ありがとうございます」
受け答えはしっかりしてる。
でも少し顔色が白い。
呼吸もまだ浅い。
肺挫傷が軽度とはいえ、痛みで十分しんどい状態だった。
それに体内酸素濃度も安定しない
「とりあえずICUで様子見だな」
救急ドクターがそう言った。
ドクターの説明に、優朔は静かに頷く。
「しばらく安静です」
「……仕事飛びましたねぇ」
ぽつりと呟く。
その言い方があまりにも淡々としていて、少しだけ驚いた。
普通ならもっと焦る。
芸能人ならなおさら。
いろんなものが頭をよぎるはずなのに。
でも優朔は先に、
「スタッフさんたち大変だろうな……」
なんて言っている。
「まず自分の心配してください」
思わず即答してしまった。
すると優朔が少し目を丸くする。
そのあと、ふっと笑った。
「怒られた」
「当たり前です」
「えぇ…七瀬さん怖い」
名札を見てそう言って笑う彼。
「優しいですよ、かなり」
「えぇ……」
そのやり取りを聞いていた若手ナースが吹き出す。
処置室の空気が少しだけ柔らかくなった。
本当に不思議な人だ。
自分が患者なのに。
空気を張り詰めさせない。
周りを安心させる。
無意識なんだろうけど。
たぶん昔からずっと、
“自分より周り”
で生きてきた人なんだろうなと思った。
「じゃあICU上がりますね」
ストレッチャーを動かす準備をしながら声をかける。
すると優朔が、小さくこちらを見た。
「……ありがとうございました」
「まだ全然終わってません」
「でも、なんか安心しました」
その言葉に、一瞬だけ手が止まりそうになる。
安心。
その単語が妙に真っ直ぐで。
変に軽くなくて。
だから余計、少しだけ胸に残った。
「それならよかったです」
仕事として返す。
それだけ。
それだけなのに。
ストレッチャーが動き出したあとも。
私はなぜか、さっきの“安心しました”って言葉を思い出してしまった。
裂傷が深い。
しかも右肩。
少し動くだけでも傷が引っ張られる場所だ。
「ちょっと響きますよー」
ドクターが声をかけながら針を通す。
その瞬間。
優朔の指先がわずかにシーツを握った。
でも声は出さない。
「……っ」
小さく息を呑むだけ。
「我慢強いですね」
思わずそう言うと。
優朔が苦笑した。
「我慢には…なれてます」
「痛い時は言ってください」
「じゃあちょっと痛いです」
「“ちょっと”じゃない顔してます」
そう返すと、また少し笑う。
ほんとこの人は。
痛いくせに空気を和ませようとする。
縫合が終わる頃には、優朔の額にはうっすら汗が滲んでいた。
鎮痛は入っている。
それでも完全には抑えきれないのだろう。
「先生、鎮痛もう少し増やしますか?」
そう聞くと。
「あぁ、助かる」
先生の返事を聞き、私は鎮静剤の量を調節する。
「気分悪くないですか?」
「大丈夫です」
「吐き気は?」
「ないです…ありがとうございます」
受け答えはしっかりしてる。
でも少し顔色が白い。
呼吸もまだ浅い。
肺挫傷が軽度とはいえ、痛みで十分しんどい状態だった。
それに体内酸素濃度も安定しない
「とりあえずICUで様子見だな」
救急ドクターがそう言った。
ドクターの説明に、優朔は静かに頷く。
「しばらく安静です」
「……仕事飛びましたねぇ」
ぽつりと呟く。
その言い方があまりにも淡々としていて、少しだけ驚いた。
普通ならもっと焦る。
芸能人ならなおさら。
いろんなものが頭をよぎるはずなのに。
でも優朔は先に、
「スタッフさんたち大変だろうな……」
なんて言っている。
「まず自分の心配してください」
思わず即答してしまった。
すると優朔が少し目を丸くする。
そのあと、ふっと笑った。
「怒られた」
「当たり前です」
「えぇ…七瀬さん怖い」
名札を見てそう言って笑う彼。
「優しいですよ、かなり」
「えぇ……」
そのやり取りを聞いていた若手ナースが吹き出す。
処置室の空気が少しだけ柔らかくなった。
本当に不思議な人だ。
自分が患者なのに。
空気を張り詰めさせない。
周りを安心させる。
無意識なんだろうけど。
たぶん昔からずっと、
“自分より周り”
で生きてきた人なんだろうなと思った。
「じゃあICU上がりますね」
ストレッチャーを動かす準備をしながら声をかける。
すると優朔が、小さくこちらを見た。
「……ありがとうございました」
「まだ全然終わってません」
「でも、なんか安心しました」
その言葉に、一瞬だけ手が止まりそうになる。
安心。
その単語が妙に真っ直ぐで。
変に軽くなくて。
だから余計、少しだけ胸に残った。
「それならよかったです」
仕事として返す。
それだけ。
それだけなのに。
ストレッチャーが動き出したあとも。
私はなぜか、さっきの“安心しました”って言葉を思い出してしまった。
