トップアイドルは白衣の天使に恋をする

拍手が少しずつ落ち着いていく中で、優朔さんがグラスを軽く揺らした。

「はいはい、感動モード一旦ここまで!」

「まだ終わってないからね、打ち上げ!」

その一言で、また会場が笑いに戻る。

「えー!今いいとこだったのに!」

「切り替え早すぎ!」

奏くんが騒ぎ、蒼依くんが笑いながらグラスを持ち上げる。

「いやでもほんと、これで一区切りだね」

その言葉に、空気が少しだけ柔らかくなる。

私の手の中には、まだチケットが残っていた。

しっかりした紙質で、特別感のあるデザイン。

全国ツアー……

まだ実感が追いつかない。

本当に、みんなすごい。

その横で、陽貴くんが小さく覗き込む。

「ちゃんと来てよ」

「…あたりまえ」

そう返すと、優しく微笑んでくれる。

その時、後ろから奏くんの声。

「ちょっとちょっとー」

「また二人だけの世界入ってる?」

「入ってない」

「絶対入ってる」

蒼依くんがすかさず乗る

否定しながらも、周りは完全にニヤニヤしている。

優朔さんがため息混じりに笑った。

「はいはい、バレバレカップルは静かにしててね」

「ちがいますからねー」

一応、ね。ほら、相手は大人気アイドルだし。

と言いながらも、誰も本気で否定していない空気。

むしろ“今さらそれ?”みたいな雰囲気すらある。

その中で、林くんだけが少しだけ視線を泳がせて、小声で呟いた。

「いや……もう隠してないですよね普通に」

「林くんまで!」

会場がまた笑いに包まれる。

その笑い声の中で、私はふとチケットを見下ろした。

この現場で過ごした時間。

一緒に笑って、一緒に走って、一緒に乗り越えた日々。

全部がここに繋がっている気がした。

隣で陽貴くんが、何気なく言う。

「終わったけど」

少しだけ間。

「終わりじゃないな」

その言葉に顔を上げると、陽貴くんはもう前を見ていた。

でも、その手はさりげなく私の手に触れている。

誰にも見えないくらいの距離で。

「……うん」

小さく答える。

会場はまだ賑やかで、誰も気づいていない。

でもそれでいい。

この距離感のまま、これからも続いていく。

笑い声の中で、グラスがまた一斉に上がった。

「みんな、完走おめでとー!!」

その声が、やけに心地よく響いていた。