トップアイドルは白衣の天使に恋をする

撮影が完全に終わった瞬間。

セットの明かりが少し落とされて、現場の喧騒がゆっくりと静かになっていく。

さっきまで鳴っていたモニター音も、救急アラームももうない。

ただの“空間”に戻ったICUセットを見ていると、少しだけ不思議な気持ちになる。

「終わったねぇ……」

誰かがぽつりと呟いた。

その一言で、現場全体がまた少しだけしんみりする。

「ほんとに終わったな」

奏くんが笑いながら言うけど、目は少しだけ赤い。

「泣いてないからな俺」

「いや誰も聞いてない」

蒼依くんの即ツッコミに、周りがまた笑った。

その空気の中で。

優朔さんがゆっくりとこちらを見た。

「一ノ瀬さん」

「はい」

「本当にお疲れさま」

その言葉は、軽くない。

この現場全部を見てきた人の言葉だった。

「一ノ瀬さんがいなかったらこの作品ここまでリアルになってない」

「……そんな」

首を振ろうとすると、優朔さんは優しく笑った。

その隣で、蒼依くんがうんうんと頷く。

「紗凪さんがいると、現場の空気がちゃんと“医療現場”になるんです」

奏くんが笑う。

そんなやりとりの中。

ふと、視線を感じて振り向く。

陽貴くん。

少し離れた場所で、黙ってこっちを見ていた。

でもその目は、さっきまでの役の目じゃない。

ただの“彼氏の顔”。

私は無意識に近づいていく。

「陽貴くん」

呼ぶと、少しだけ笑った。

「お疲れ」

「うん……お疲れさま」

その一言だけで、十分だった。

長かった撮影。

すれ違った日もあった。

忙しさに追われた日もあった。

でも。

ちゃんと、ここまで来た。

すると陽貴くんが、ぽつりと言う。

「やっと終わったな」

「……うん」

「紗凪、すごかった」

その言葉に、少しだけ目を伏せる。

するとすぐに、軽く頭を撫でられた。

「ほんとに」

「ずっと見てたから」

その手が優しくて。

なんだか、全部報われた気がした。

その時。

後ろから大きな声。

「はいはい!打ち上げ行くぞー!!」

奏くんのテンションが一気に戻る。

「泣くの禁止ね!」

「誰も泣いてないだろ!」

「絶対泣くやついるって!」

笑い声が広がる。

優朔さんがため息混じりに笑う。

「はいはい、最後まで騒がしい現場だこと」

蒼依くんが肩をすくめる。

「でも嫌いじゃないっすね、こういうの」

その言葉に、少しだけ胸があたたかくなる。

私は隣を見た。

陽貴くんと目が合う。

そして。

小さく、笑った。

「……終わったね」

「うん」

「じゃあ」

少し間を置いて。

陽貴くんが、ほんの少しだけ声を落とす。

「打ち上げ行くか」

その言葉に。

「うんっ」

そう返事をして打ち上げに向かった。