トップアイドルは白衣の天使に恋をする

そして——

ついに撮影再開の日。

ICU前には朝からスタッフたちが慌ただしく動いていた。

機材搬入。

照明チェック。

メイクスタッフの声。

久しぶりの現場の空気。

その中へ足を踏み入れた瞬間。

「あーーー!!紗凪ちゃん!!」

元気いっぱいの声。

振り向くと、奏くんがこちらへ走ってきていた。

「おかえりっす!!」

「わっ」

勢いそのままに抱きつかれそうになった瞬間。

後ろからぐいっと奏くんのパーカーが引っ張られる。

「近い」

低い声。

奏くんが「ぐえっ」と変な声を出した。

「陽貴さんひどっ!!」

振り返ると。

そこには黒マスク姿の陽貴くん。

帽子を深く被っているのに、それでも目立つ。

「紗凪に飛びつこうとするな」

「えぇ〜?」

奏くんがニヤニヤしながら私と陽貴くんを交互に見る。

「なんかさぁ」

「陽貴さん最近紗凪ちゃんに対してだけガード硬くない?」

「気のせい」

即答。

その返事が早すぎて逆に怪しい。

蒼依くんが吹き出した。

「いや絶対気のせいじゃないだろ」

「前から思ってたけど陽貴さん一ノ瀬さんいる時だけ顔違うもん」

「えっ」

思わず固まる。

すると。

奏くんまでうんうん頷き始めた。

「分かる!」

「なんか急に優しくなる!」

「あと声のトーン違う!」

「お前らうるさい」

陽貴くんは真顔。

でも耳が少し赤い。

それを見た優朔さんが肩を震わせた。

「はは、図星だ」

「優朔さんまで…」

私が思わず言うと。

優朔さんは楽しそうに笑った。

「いやぁ、でも分かりやすすぎるんだよね陽貴」

「普段あんな塩なのに紗凪ちゃんには激甘」

「それな」

蒼依くん即同意。

「この前だって、紗凪ちゃんがちょっと咳しただけで“水いる?”って一番最初に反応してたし」

「しかもめっちゃ真顔で」

「え、なにそれ怖」

奏くんが笑う。

「彼氏みたいじゃん」

ドキッ——

心臓が跳ねる。

思わず陽貴くんを見る。

でも陽貴くんは涼しい顔。

「心配しただけ」

「いやそのレベル超えてんのよ」

奏くんがニヤニヤしながら近づいてくる。

「もしかしてさ〜?」

その瞬間。

「はいそこ準備してー!」

監督の声が飛ぶ。

「あっやべ」

奏くんが離れていく。

助かった……。

そう思った瞬間。

隣で陽貴くんが小さく笑った。

「バレそう」

小声。

「っ……」

「陽貴くんのせいでしょ」

「俺?」

「分かりやすすぎるの」

そう言うと。

陽貴くんが少し目を細めた。

「だって好きだから仕方ない」

さらっと爆弾発言。

「ちょ、現場でそういうこと言わないでっ」

慌てる私を見て。

陽貴くんが楽しそうに笑う。

その時。

少し離れた場所から。

「……やっぱ黒だろあれ」

蒼依くんの小声。

「黒だな」

奏くん即答。

「でも本人たち絶対隠してるつもりだよね」

「見守っとく?」

「見守っとこ」

そんな会話が聞こえてきて。

私は思わず頭を抱えたくなった。

でも。

その空気はどこか温かくて。

みんなが笑っていて。

現場には、久しぶりに穏やかな空気が流れていた。