トップアイドルは白衣の天使に恋をする

ようやく業務が終わる。

「お疲れさまです」

「お疲れ〜」

スタッフ同士で挨拶を交わし、更衣室へ向かう。

今日はなんだか長かった。

忙しかったし、処置も多かったし、途中で急変も入った。

充実した疲労感。

ロッカーを開け、携帯を見る。

すると陽貴くんからメッセージが届いていた。

『地下駐車場きて』

その一文だけ。

でも。

思わず口元が緩む。

迎えにきてくれたのかな?

なんだか急に疲れが飛んでいく。

急いで着替えを済ませ、更衣室を出た。

エレベーターに乗って地下へ向かう。

静かな駐車場。

少しひんやりした空気。

その奥に。

見覚えのある黒塗りの車が止まっていた。

「……いた」

近づくと。

助手席の窓がゆっくり下がる。

サングラス姿の陽貴くん。

「おつかれ」

低くて甘い声。

その瞬間。

今日一日の疲れが、本当に全部溶けた気がした。

「迎えにきてくれたの?」

そう聞くと。

陽貴くんが少し笑った。

「そりゃ来るでしょ」

「今日休みだったし」

そう言って助手席を軽く叩く。

乗って、ってことらしい。

助手席に乗り込むと。

ドアが閉まった瞬間。

「……やっと会えた」

ぽつり。

そう言った陽貴くんが、すぐ手を伸ばしてくる。

シートベルトを付けるより先に。

ぎゅっと抱き寄せられた。

「ちょ、陽貴くんっ」

「5秒だけ」

「絶対5秒じゃない」

「うるさい」

くすっと笑う声。

でも抱きしめる腕は全然離れない。

むしろ少し力が強い。

「今日も頑張った?」

耳元で優しく聞かれる。

「……うん」

「偉い」

頭を撫でられる。

その触れ方が優しすぎて。

思わず力が抜ける。

「陽貴くんは?」

そう聞くと。

陽貴くんが私の手を指先までぎゅっと握り直した。

「今日さ」

「ん?」

「一日中、紗凪のこと考えてた」

あまりにも自然に言われて。

思わず固まる。

「……え?」

「朝、紗凪送り出してから急に家静かになってさ」

ぽつりぽつりと話し始める。

「ソファ見ても紗凪いないし」

「キッチン行ってもいないし」

「ベッドにも当然いないし」

「……めちゃくちゃ寂しかった」

最後だけ少し拗ねた声。

「だから午前中、ずっと紗凪のこと考えて」

「午後は紗凪が好きそうな店調べて」

「夕方くらいから、あと何時間で会えるかなって数えてた」

「……愛がすごいね」

思わず笑いながら言うと。

陽貴くんが真顔で頷く。

「知ってる」

「でも無理だった」

「会えなさすぎて」

そう言って。

私の手の甲にちゅっとキスを落とす。

「今日何回“会いたい”って思ったかわかんない」

その声が甘すぎて。

胸がぎゅっとなる。

「……そんなに?」

「うん」

「なんなら病院乗り込もうかと思った」

「やめて」

「ギリ理性で止めた」

「偉いね」

「でしょ?」

褒められ待ちみたいな顔。

可愛くて笑ってしまう。

すると。

陽貴くんが少し身体を寄せてきた。

「でもさ」

「ん?」

「CM撮影とかしてる時も」

「雑誌のインタビュー受けてる時も」

「頭の中、紗凪ばっか」

「でも合間に“今頃なにしてるかな”って考える」

その声はすごく自然で。

嘘がない。

だから余計に胸に響く。

「患者さん対応してるかな、とか」

「また無理してないかな、とか」

「ちゃんとご飯食べてるかな、とか」

「……心配しすぎ」

「彼氏だから」

また堂々と言う。

ほんとずるい。

「しかも今日、家で一人でいたらさ」

「紗凪がここ座ってたなーとか」

「ここで笑ってたなーとか」

「思い出して余計会いたくなった」

そう言いながら。

陽貴くんが私の肩へ額をこつんと当てる。

「もう半同棲したあと一人になるのキツい」

「まだ半同棲してないよ」

「俺の気持ち的にはしてる」

真顔。

思わず吹き出す。

すると。

陽貴くんも楽しそうに笑った。

「……だから迎え来た瞬間、安心した」

「やっと会えたって」

優しい声。

そのまま。

またぎゅっと手を握られる。

「今日の3回戦」

ニヤッと笑い

「覚悟してね」

耳元で低く囁かれて。

私はまた、顔を真っ赤にするしかなかった。