今日のヘリ出動は3件。
交通外傷。
心筋梗塞疑い。
高齢者の転倒外傷。
復帰初日とは思えないほど慌ただしい一日だった。
でも、不思議と疲労感より充実感の方が大きい。
久しぶりのローター音。
緊迫した現場。
命を繋ぐ時間。
やっぱり私は、この仕事が好きだ。
19時過ぎ。
ようやく業務を終えて病院を出る。
空はすっかり暗くなり始めていた。
「はぁ……疲れたぁ……」
小さく息を吐く。
でも嫌な疲れじゃない。
むしろどこか満たされている。
そんなことを思いながら歩いていると。
「あの……!」
後ろから声をかけられた。
振り返るとそこにいたのは、20代前半くらいの男の子。
どこか見覚えがある。
患者さん……?
「あ、あの……覚えてませんか?」
少し緊張したような声。
私は記憶を辿る。
すると。
「あっ……!」
思い出した。
「居酒屋で……助けてもらった」
「あの時の……!」
急性アルコール中毒で倒れた男の子だった。
今日は私服ではなく病衣姿。まだ入院中らしい。
「はい!」
男の子が嬉しそうに笑う。
「あの時ほんとにありがとうございました」
深々と頭を下げられる。
「助かってよかったです」
自然と笑みがこぼれる。
「もう飲みすぎ注意ですよ?」
少し冗談っぽく言うと。
男の子は一気に顔を赤くした。
「うっ……めちゃくちゃ怒られました……」
「ふふ、でしょうね」
でも表情を見る限り、かなり元気そう。
よかった。
「あの時、お姉さん達がいなかったら本当に危なかったって先生にも言われて……」
真っ直ぐな目。
その言葉に、少し照れくさくなる。
「これからは、飲む量考えてくださいね」
「はい、そうします!」
勢いよく言ったあと。
男の子は少しモジモジし始めた。
「あの……」
「はい?」
「その……もしよかったら、お礼したくて……連絡先とか……」
そこまで言いかけた、その瞬間。
突然。
後ろから肩をぐいっと抱き寄せられる。
「この子は俺のだから、だめ」
聞き慣れた低い声。
「……っ!?」
びっくりして振り返る。
そこには。
黒マスクにキャップ姿の陽貴くん。
「…っ!?」
「ただいま」
目だけで笑ってる。
でも。
肩を抱く手が妙にしっかりしている。
男の子は完全に固まっていた。
「え……えっ……?」
状況が追いついてない顔。
すると陽貴くんが、そのまま私を引き寄せながら言った。
「この子の彼氏なんで」
さらっと爆弾発言。
「っっ!?」
私は一気に顔が熱くなる。
「ちょっ……!」
「ん?」
絶対わざと。
男の子は「えっ……えぇっ!?」とさらに混乱していた。
陽貴くんはそんな彼を見て、ふっと笑う。
「助けてもらったなら感謝だけにしといてね?」
笑顔なのに圧がすごい。
完全に牽制してる。
「は、はいっ!!」
男の子が勢いよく頷く。
もう半分敬礼みたいになってる。
すると男の子が「あ、あの!」と慌てて口を開いた。
「ほんとにありがとうございました!」
「あと……お幸せに!」
そう言って真っ赤な顔のまま病棟へ走っていった。
私は恥ずかしさで死にそうだった。
「もうっ……」
陽貴くんを軽く睨むと。
「だってナンパされてた」
「ナンパじゃないよ!」
「いや完全に連絡先聞いてたじゃん」
不満そうな声。
その姿が妙に子供っぽくて、思わず笑ってしまう。
静かになる。
そして。
「……陽貴くん」
「ん?」
「いつからいたの?」
そう聞くと。
陽貴くんが少し拗ねた顔をした。
「“連絡先”あたりから」
「……最悪」
「俺はもっと最悪」
「海外から帰ってきて秒で彼女口説かれてるの見た」
「口説かれてないってば!」
笑いながらそう言うと。
陽貴くんはふっと息を吐いて。
そのまま、ぎゅっと抱きしめてきた。
「……会いたかった」
耳元で落ちてくる声。
その一言だけで。
一週間分の寂しさが、一気に溶けていく気がした。
交通外傷。
心筋梗塞疑い。
高齢者の転倒外傷。
復帰初日とは思えないほど慌ただしい一日だった。
でも、不思議と疲労感より充実感の方が大きい。
久しぶりのローター音。
緊迫した現場。
命を繋ぐ時間。
やっぱり私は、この仕事が好きだ。
19時過ぎ。
ようやく業務を終えて病院を出る。
空はすっかり暗くなり始めていた。
「はぁ……疲れたぁ……」
小さく息を吐く。
でも嫌な疲れじゃない。
むしろどこか満たされている。
そんなことを思いながら歩いていると。
「あの……!」
後ろから声をかけられた。
振り返るとそこにいたのは、20代前半くらいの男の子。
どこか見覚えがある。
患者さん……?
「あ、あの……覚えてませんか?」
少し緊張したような声。
私は記憶を辿る。
すると。
「あっ……!」
思い出した。
「居酒屋で……助けてもらった」
「あの時の……!」
急性アルコール中毒で倒れた男の子だった。
今日は私服ではなく病衣姿。まだ入院中らしい。
「はい!」
男の子が嬉しそうに笑う。
「あの時ほんとにありがとうございました」
深々と頭を下げられる。
「助かってよかったです」
自然と笑みがこぼれる。
「もう飲みすぎ注意ですよ?」
少し冗談っぽく言うと。
男の子は一気に顔を赤くした。
「うっ……めちゃくちゃ怒られました……」
「ふふ、でしょうね」
でも表情を見る限り、かなり元気そう。
よかった。
「あの時、お姉さん達がいなかったら本当に危なかったって先生にも言われて……」
真っ直ぐな目。
その言葉に、少し照れくさくなる。
「これからは、飲む量考えてくださいね」
「はい、そうします!」
勢いよく言ったあと。
男の子は少しモジモジし始めた。
「あの……」
「はい?」
「その……もしよかったら、お礼したくて……連絡先とか……」
そこまで言いかけた、その瞬間。
突然。
後ろから肩をぐいっと抱き寄せられる。
「この子は俺のだから、だめ」
聞き慣れた低い声。
「……っ!?」
びっくりして振り返る。
そこには。
黒マスクにキャップ姿の陽貴くん。
「…っ!?」
「ただいま」
目だけで笑ってる。
でも。
肩を抱く手が妙にしっかりしている。
男の子は完全に固まっていた。
「え……えっ……?」
状況が追いついてない顔。
すると陽貴くんが、そのまま私を引き寄せながら言った。
「この子の彼氏なんで」
さらっと爆弾発言。
「っっ!?」
私は一気に顔が熱くなる。
「ちょっ……!」
「ん?」
絶対わざと。
男の子は「えっ……えぇっ!?」とさらに混乱していた。
陽貴くんはそんな彼を見て、ふっと笑う。
「助けてもらったなら感謝だけにしといてね?」
笑顔なのに圧がすごい。
完全に牽制してる。
「は、はいっ!!」
男の子が勢いよく頷く。
もう半分敬礼みたいになってる。
すると男の子が「あ、あの!」と慌てて口を開いた。
「ほんとにありがとうございました!」
「あと……お幸せに!」
そう言って真っ赤な顔のまま病棟へ走っていった。
私は恥ずかしさで死にそうだった。
「もうっ……」
陽貴くんを軽く睨むと。
「だってナンパされてた」
「ナンパじゃないよ!」
「いや完全に連絡先聞いてたじゃん」
不満そうな声。
その姿が妙に子供っぽくて、思わず笑ってしまう。
静かになる。
そして。
「……陽貴くん」
「ん?」
「いつからいたの?」
そう聞くと。
陽貴くんが少し拗ねた顔をした。
「“連絡先”あたりから」
「……最悪」
「俺はもっと最悪」
「海外から帰ってきて秒で彼女口説かれてるの見た」
「口説かれてないってば!」
笑いながらそう言うと。
陽貴くんはふっと息を吐いて。
そのまま、ぎゅっと抱きしめてきた。
「……会いたかった」
耳元で落ちてくる声。
その一言だけで。
一週間分の寂しさが、一気に溶けていく気がした。
