トップアイドルは白衣の天使に恋をする

梓と入った居酒屋は、仕事終わりの人たちで賑わっていた。

「お疲れ様でしたー!」

周りのテーブルから聞こえる楽しそうな声。

ジュージューと焼ける音。

美味しそうな匂い。

久しぶりに肩の力を抜ける空間だった。

「とりあえず復帰祝いね!」

梓が嬉しそうにメニューを開く。

「紗凪、今日は飲む?」

「んー……少しだけなら」

「え、珍し!」

そんな他愛ない話をしていた、その時。

――ガタンッ!!

大きな音が店内に響いた。

一瞬、空気が止まる。

「お、おい!?」

「ちょっ、しっかりしろって!!」

奥の席。

若い男の子が床に倒れていた。

周りには同じくらいの年齢の男の子たち。

完全にパニックになっている。

「やばいって!!」

「誰か救急車!!」

「え、息してる!?!?」

その声を聞いた瞬間。

私と梓は顔を見合わせた。

次の瞬間には、もう身体が動いていた。

「すみません、通してください」

そう声をかけながら駆け寄る。

倒れている男の子は20代前半くらい。

顔面蒼白。

呼びかけへの反応鈍い。

周囲には大量の酒。

テーブルには空いたショットグラス。

鼻をつくアルコール臭。

「急性アルコール中毒……」

一瞬で状況を把握する。

「梓、救急車お願い!」

「了解!」

梓がすぐ119へ。

私は男の子の肩を叩く。

「わかりますか?聞こえますか?」

反応は弱い。

でも呼吸はある。

脈も触れる。

ただ、かなり危ない。

「横向きにします!」

周りの男の子たちは完全に青ざめていた。

「え……え……」

「ど、どうしたら……」

「大丈夫、落ち着いて」

冷静に声をかけながら、私は気道確保のため回復体位を取る。

吐物誤嚥が一番怖い。

案の定。

「っ……おぇ……」

男の子が嘔吐した。

周囲が悲鳴を上げる。

「下がって!」

梓もすぐ戻ってきて、一緒に周囲を整理してくれる。

「救急車向かってる」

「ありがとう」

私は呼吸状態を確認しながら声をかけ続ける。

「大丈夫、聞こえる?」

「眠らないで」

男の子はうっすら目を開けるが、焦点が合わない。

危ない。

かなり飲んでいる。

「何飲ませたの!?」

友達の1人が泣きそうな顔で答える。

「ショットを……何杯も……」

「途中から様子おかしくて……」

震える声。

まだ若い。

楽しく飲んでいただけだったのだろう。

でも、一歩間違えれば命に関わる。

「今は大丈夫だから、落ち着いて」

そう言いながらも、私は呼吸数、皮膚状態、意識レベルを観察し続ける。