トップアイドルは白衣の天使に恋をする

病院を出ると。

空はオレンジ色に染まり始めていた。

忙しかった一日の終わり。

少しだけ疲れた身体を伸ばしながら、病院の入り口を出たその時。

後ろから、ぱっと視界が塞がれる。

「だーれだ?」

聞き慣れた明るい声。

「……梓」

そう言うと。

「せいかーい!」

ぱっと手が離れる。

振り返ると、そこには満面の笑みを浮かべた梓。

「もう聞いたよ!?フライト復帰!!」

その勢いのまま、ぎゅうっと抱きしめられる。

「ほんっとによかったぁぁ……!」

「ちょ、梓っ苦しいっ」

思わず笑うと。

梓は少しだけ目を潤ませながら私を見た。

「だって紗凪、めちゃくちゃ頑張ってたじゃん……」

その言葉に。

胸がじんわり熱くなる。

「……うん」

「しかもさ!?病院の子から聞いたけど、会議でめっちゃ高評価だったんでしょ!?」

「え、なんで知ってるの……」

「医療界舐めんな。情報回るの早いんだから」

得意げな顔。

思わず吹き出す。

すると梓が急に真顔になった。

「でもほんと、よかった」

「紗凪が飛べなくなるとか、絶対嫌だったから」

まっすぐなその言葉に。

少しだけ、目の奥が熱くなる。

梓にも本当にたくさん支えてもらって。

梓がいないときっと私は立ち直れていなかった。

「……ありがと」

そう言うと。

梓はふっと笑った。

「よし!今日は祝いだ!」

「ご飯行くよ!もちろん私のおごりでね!」

「えっ、今から?」

「当たり前でしょ!」

有無を言わせない勢い。

でもその明るさが嬉しくて。

自然と笑みがこぼれる。

「……じゃあ行こっか」

「よっしゃー!」

梓は嬉しそうに私の腕を組む。

「今日は紗凪の好きなもん食べよ!」

「何食べたい?焼肉?寿司?韓国料理?」

「えぇ……急に選択肢多い」

「だって今日はめでたい日だから!」

楽しそうに笑う梓。

その姿を見ていると。

張り詰めていた気持ちが、少しずつ軽くなっていく。

2人で並んで歩く帰り道。

夕焼けの風が気持ちいい。

「そういえば陽貴くんは?」

ふいに聞かれて。

「今海外で撮影中」

「あー、だから今日いないんだ」

「うん。来週帰ってくるって」

その瞬間。

梓がニヤァっと笑った。

「へぇ〜?」

「なにその顔」

「いやぁ?紗凪ちゃん最近幸せそうだなぁって?」

「っ……!」

一気に顔が熱くなる。

「もう、やめてよ……!」

「いやでも前と全然顔違うもん」

「柔らかくなった」

そう言われて。

少しだけ驚く。

「……そうかな」

「そうだよ」

梓は優しく笑った。

「ちゃんと大事にされてる顔してる」

その言葉が、胸に残る。

陽貴くんの顔が浮かぶ。

優しい声。

抱きしめてくれる腕。

真っ直ぐな言葉。

思い出すだけで、心が温かくなる。

「……うん」

自然と笑みがこぼれた。

それを見た梓は満足そうに頷く。

「よし、今日はいっぱい恋バナ聞くからね」

「えっ」

「もちろん“その後”も含めて」

「っっ!?!?」

「顔真っ赤じゃん!」

「梓!!」

夕暮れの街に。

キャーキャーと騒ぐ2人の笑い声が響いていた。