トップアイドルは白衣の天使に恋をする

その日の業務を終えて更衣室へ向かう。

ロッカーを開け、携帯を見ると陽貴くんからメッセージが届いていた。

『今終わった』

『紗凪、今日何時終わり?』

その文字を見た瞬間。

疲れが少し飛ぶ。

思わず口元が緩んだ。

『今終わったところ』

『ねぇ陽貴くん』

少し迷ってから。

私は続けて文字を打つ。

『フライト復帰、正式に決まったよ』

送信。

数秒後。

すぐに既読がつく。

そして。

『は?』

『まじ?』

『ほんと?』

立て続けに来るメッセージ。

思わず笑ってしまう。

『ほんと』

すると。

すぐ電話がかかってきた。

「もしもし?」

『紗凪』

電話越しなのに。

陽貴くんの声がすごく嬉しそうなのが分かる。

久しぶりの陽貴くんの声。

『……よかったな』

その一言に。

胸がじんわり熱くなる。

「……うん」

『俺、絶対戻れるって思ってた』

『紗凪なら大丈夫だって』

優しい声。

まっすぐな言葉。

あぁ。

この人、本当にずっと信じてくれてたんだ。

「ありがと……」

少し声が震える。

すると陽貴くんが、ふっと笑った。

『は〜紗凪に会いたい』

どきっとする。

『仕事の合間でもいいから顔見たい』

『頑張った紗凪ちゃん抱きしめたい』

その甘い声に、一気に顔が熱くなる。

「……もう」

『照れてる?』

「照れてないっ」

『絶対照れてる』

楽しそうに笑う声。

それだけで、会いたくなる。

「陽貴くんは今日まだ仕事?」

そう聞くと。

少しだけ間が空いた。

『今、海外なんだよね』

「……え?」

思わず聞き返す。

『雑誌の撮影で昨日から海外来てる』

『言うの忘れてた』

「えぇ……」

だから時差なのかな、と今さら気づく。

すると陽貴くんがくすっと笑った。

『来週の夜には帰る』

『帰ったらすぐ紗凪に会いに行くから』

その言葉に。

胸がぎゅっとなる。

“帰ったら会いに行く”

その当たり前みたいな言い方が嬉しくて。

「……忙しいのに大丈夫?」

『大丈夫じゃなくても行く』

即答。

思わず笑ってしまう。

『むしろ今すぐ帰りたい』

『もう一週間近く会ってないんだけど』

「ふふ……」

『笑ったな?』

「だって陽貴くん拗ねてるみたい」

『実際拗ねてる』

その声が本当に不満そうで。

でもどこか甘えていて。

可愛くて。

胸が温かくなる。

『紗凪ちゃん不足限界』

『毎日写真見て耐えてる』

「えっ」

『この前水族館で撮ったやつ』

一気に顔が熱くなる。

「見てるの?!」

『めちゃくちゃ見てる』

『なんなら待ち受けにしたい』

「だ、だめっ」

『なんで』

「恥ずかしいもん!」

電話越しに陽貴くんの笑う声。

『可愛い』

『会ったらいっぱい補給させて』

低く甘い声に、心臓が跳ねる。

「……知らない」

『あ、逃げた』

「逃げてないっ」

そんな他愛ないやり取りが、すごく幸せだった。

離れてるのに。

ちゃんと繋がってる気がする。

すると。

『紗凪』

急に少し真面目な声。

「ん?」

『ほんとによく頑張ったな』

優しく落ちてくる言葉。

『俺、紗凪がまた飛べるって聞いて、ほんと嬉しい』

『だから帰ったらいっぱいお祝いさせて』

その声があまりにも優しくて。

涙が出そうになる。

「……うん」

『約束』

「約束」

すると。

向こうで誰かが陽貴くんを呼ぶ声がした。

『やば、そろそろ入る』

「頑張ってね」

『紗凪もちゃんと帰って休めよ』

『あと』

少し間。

『帰ったら絶対抱きしめる』

「っ……」

『返事はその時聞くから』

また意地悪そうに笑う声。

「もう……」

『大好き』

不意打ちみたいにそう言って。

陽貴くんは電話を切った。

静かになった更衣室。

でも。

胸の奥は、驚くほど温かかった。

遠く離れているはずなのに。

まるで隣にいるみたいに感じて。

気づけば私は、小さく笑っていた。