トップアイドルは白衣の天使に恋をする

コンコン。

「失礼します」

扉を開ける。

すると師長さんが、いつもの穏やかな顔でこちらを見た。

「お疲れ様、一ノ瀬」

「お疲れ様です」

「座って」

言われるまま椅子に腰掛ける。

なんだろう。

少し空気が違う。

胸がざわついた。

そんな私を見て。

師長さんがふっと笑った。

「そんな緊張しなくて大丈夫よ」

「え……?」

そして。

師長さんはゆっくり口を開く。

「一ノ瀬、本格的にフライト再開になったわ」

――え。

一瞬。

言葉の意味が理解できなかった。

「……え?」

思わず聞き返す。

すると師長さんが頷いた。

「正式決定。来週からフライト復帰」

その瞬間。

胸が、大きく震えた。

「……ほん、とですか」

声がうまく出ない。

師長さんは優しく笑う。

「会議ではね、一ノ瀬の資格停止に賛成する人なんて誰もいなかったわ」

「むしろ、“あの状況で冷静に動けた対応力は評価すべき”って声ばっかり」

「ドクター陣もかなり庇ってくれてたのよ」

じわっと目の奥が熱くなる。

「あの件は、一ノ瀬個人の問題じゃない」

「完全に外部要因」

「病院としても正式にそう判断されたわ」

その言葉を聞いた瞬間。

やっと。

本当にやっと。

全部終わったんだって思えた。

怖かった日々。

責め続けた自分。

眠れなかった夜。

全部が、少しずつほどけていく。

「……よかった」

気づけば、小さくそう呟いていた。

師長さんはそんな私を見て、優しく目を細める。

「ほんとによく頑張ったわね」

その一言で。

危うく涙が出そうになる。

でも。

師長さんはそこで少し表情を引き締めた。

「ただ……花宮胡桃の件は、かなり大きくなってる」

空気が少し変わる。

「警察も正式に入ったし、病院側も事情聴取続き」

「本人も最初は軽く考えてたみたいだけど、やったことが悪質すぎる」

アドレナリンの持ち出し。

医療行為妨害。

ヘリへの不正侵入。

問題が問題なだけに、かなりややこしくなっているらしい。

私は静かに話を聞く。

でも不思議と。

もう前みたいな恐怖はなかった。

きっと。

周りのみんなが支えてくれたから。

信じてくれる人がいたから。

「……一ノ瀬」

師長さんが優しく名前を呼ぶ。

「あなたを必要としている患者さんがたくさんいるわ。
救いなさい、たくさんの命を」

その言葉に。

私はゆっくり頷いた。

「……はい」

今度こそ。

ちゃんと前を向いて。

また飛ぼうと思った。