トップアイドルは白衣の天使に恋をする

「その際、機内には他に誰か?」

「いえ……私が外で別の対応をしている間、花宮さんは一人で機内にいました」

――確定する。

空気が、一気に張り詰める。

ゆっくりと。

全員の視線が――花宮胡桃に向く。

「……花宮さん」

院長の低い声。

逃げ場は、もうない。

胡桃は一瞬、黙り込む。

でも次の瞬間。

ふっと、笑った。

それは今まで見せていた甘ったるい笑顔じゃない。

どこか、歪んだ笑み。

「……なにそれ」

小さく呟く。

「そんな大げさな話にする必要ある?」

空気が凍る。

「私はただ――」

ゆっくりと顔を上げる。

その目は、もう隠していない。

「この女を、ちょっと困らせようと思っただけ」

――その一言。

時間が、止まる。

「……っ」

息が詰まる。

……今、なんて

信じられない。

あまりにも軽くて。

あまりにも身勝手で。

命がかかっていた現場で。

それを――“ちょっと”で片付けるなんて。

「薬も、別に全部持ってったわけじゃないし」

肩をすくめる。

「ちょっと隠しただけ」

ざわっ――

一気に騒めきが広がる。

「ふざけるな!」

誰かの怒声。

医師の一人が立ち上がる。

「それがどれだけ重大なことか分かっているのか!」

でも。

胡桃は、笑ったまま。

「だってさぁ」

ちらっと、私を見る。

「いつも完璧で、周りからチヤホヤされて
つまんなかったんだもん」

――胸が、締め付けられる。

「少しくらい失敗してもいいじゃん?」

「それで評価下がるくらいなら、その程度でしょ?」

言葉が、刃みたいに刺さる。

でも。

もう、さっきとは違う。

私は、ただ俯くだけじゃない。

ゆっくりと顔を上げる。

まっすぐに、胡桃を見る。

涙は、もう止まっていた。


でも――

同時に。

救ってくれた人たちがいる。

後ろにいる、みんな。

そして――陽貴くん。



会議室の空気は、完全に変わっていた。

これはもう――

ただの「ミスの検証」じゃない。

明らかな、“事件”として。

全てが、動き始めていた。