トップアイドルは白衣の天使に恋をする

気づけば、時計は22時を少し過ぎていた

「はい、今日はここまででーす!」

監督の声が響いた瞬間、張り詰めていた空気がふっと緩む

スタジオ中に、安堵の空気が広がる

スタッフたちの会話や、機材を片付ける音

一気に現実に引き戻されるような感覚

「……はぁ」

小さく息を吐く

肩の力が抜けて、どっと疲れが出る

長い一日だった

でも―帰ったら、紗凪がいる

その一つの事実だけで、身体が軽くなる

急ぎ足で控室に戻り、荷物をまとめる

手早く準備をしながら、スマホを取り出す

『今終わったから今から帰るね』

短く打って、送信

ほんの数秒後

画面が震える

『お疲れ様でしたおうちで待ってるね』

その一文を見た瞬間

ふっと、頬が緩む

何気ない一言なのにそれだけで、疲れが抜けていく

胸の奥が、じんわりとあたたかくなる

自然と足が速くなる

「お疲れ様です」

軽く挨拶をしながら、現場を後にする

――

外に出ると、夜の空気

少しひんやりしていて、でも心地いい

タクシーに乗り込み、窓の外をぼんやり眺める

流れていく街の灯り

その中で、ふと今日のことを思い出す

ピアスのこと

くるみのこと

まだ何も確定していない、不安定な状況


それよりも

今は早く紗凪の待つ家に帰りたい

その気持ちの方が、ずっと強かった