トップアイドルは白衣の天使に恋をする

陽貴side

「はーい、カットー!」

監督の声がスタジオに響く

一気に空気が緩んで、スタッフたちが動き出す

機材の音

人の声

慌ただしく行き交う足音

――いつもと変わらない、撮影現場

なのにどこか、足りない

「はぁ……」

無意識に、ため息がこぼれる

視線が、ふとあの場所に向く

本来なら、そこにいるはずの人

白衣姿で、忙しそうに動いてるはずの人

でも――いない

「一ノ瀬さんいないとモチベ上がんねぇよな〜」

「分かる俺あの人見るために毎日頑張ってたのに」

スタッフたちの声が、耳に入る

思わず、小さく笑う

ほんと、それな心の中で同意する

スタジオに、紗凪がいない

それだけで、こんなに違うのかってくらい

空気が、軽く感じる

……いや、違うか

軽いんじゃなくて、“抜けてる”

大事なものがぽっかりと

資格会議まで、あと4日

その間は現場にも来ない

まぁ……あいつ、頑張りすぎだからな

正直、休んでくれた方がいい

そう思う自分もいる

無理して笑ってた顔、震えてた身体

……あんな状態で現場立たせたくない

「おはようございます」

声をかけられて、意識が戻る

振り返ると――林

「おはよ」

なんかこいつにはキャラ作らなくてもいいかと思ってしまった

「ちょっといいすか」

少しだけ真剣な顔

「……?」

そのまま、スタジオの端へ

人の少ない場所まで移動する

周りを気にするように、一度視線を巡らせてから

「これ」

そう言って、何かを差し出してくる

手のひらの上に乗っていたのは――

「……ピアス?」

小さなハート型の、女物のピアス

「はい」

林の声が、低くなる

「俺、どうしても一ノ瀬さんがあんなミスするとは思えなくて」

その言葉に、思わず視線が上がる

「……あの日、ヘリ見に行ったんですよ」

静かに続ける

「そしたら、機内の中にこれが落ちてて」

一瞬、空気が変わる

「医療従事者は、アクセサリー絶対つけないんで」

「……外部の人間のもの、ってことか」

「はい」

短く、はっきりとした返事

その目は、本気だった

「……」

俺は、そのピアスを見つめる


やっぱり、か

心の中で、確信に近いものが固まる

「後、4日しかありません」

林の声が、少しだけ強くなる

「どうか、協力してください」

まっすぐな視線その目を見て

そんなの、答えなんて最初から決まってる

「分かった」

短くそう言った

「俺も、調べるつもりだったし」

林の表情が、少しだけ緩む

「ありがとうございます」

そのまま、ピアスを受け取る

ひんやりとした感触

ポケットにしまいながら、思う

疑わしいのは1人いる

絶対に、証明してやる

紗凪が、そんなミスするはずないって

誰よりも分かってる

だから――

「これは、まだ内緒な」

小さく言う

「俺と、お前と……あと、俺らのメンバーだけ」

「……はい」

林が頷く

スタジオの喧騒が、また戻ってくる

でも、さっきとは違う

目的ができた

守りたいものが、はっきりした

待ってろ、紗凪

ポケットの中のピアスに触れながら静かに決意を固めた