トップアイドルは白衣の天使に恋をする

それからも、他愛のない話でずっと笑っていた

さっきまでの重たい空気が嘘みたいに、くだらないことで盛り上がって

「それ絶対嘘でしょ!」

「いやほんとだって!」

そんなやり取りを繰り返しているうちに――

ふと時計を見ると、もう17時

「え、もうこんな時間?」

思わず声が出る

「ほんとだ」

梓もスマホを見て、軽く伸びをする

「じゃあ私、そろそろ行くわ」

「うん……って、帰るの?」

何気なく聞くと、梓はあっさり言った

「うん、このまま夜勤」

「……え?」

一瞬、意味が分からなかった

「え、夜勤?」

「うん」

「え、今日?」

「今日」

「え、今から?」

「今から」

「……えぇ?!」

思わず声が大きくなる

「ちょっと待って、全然聞いてないんだけど!」

「言ってないもん」

さらっと返される

「なんで?!」

「いや」

少しだけ笑って、肩をすくめる

「紗凪と出かけたかっただけだし」

「……」

一瞬、言葉が出なかった

「え、でも夜勤前に……」

申し訳なさが一気に込み上げる

寝ずに行く夜勤の過酷さを私は知っているから

「ごめん、私のせいで……」

そう言いかけると、すぐに遮られる

「違うって」

きっぱり

「私が行きたくて来たの」

真っ直ぐな目

「夜勤なんて、寝なくても働けるし」

軽く笑う

「全然問題ない、私まだバリバリの20代ですから!」

その言い方が、あまりにも自然で

気遣いじゃなくて、本気でそう言っているのが伝わってきたから

「……ほんとに?」

少しだけ不安で聞くと

「ほんと」

迷いなく頷く

「むしろ楽しかったし」

にこっと笑う

「ストレス発散できたの私も」

その言葉に、胸がじんわり温かくなる

「……ありがと」

自然と、そう言っていた

「どういたしまして」

軽く手を振る梓

「また行こ」

「うん」

「今度はちゃんと休みの日にね」

「ほんとそれ」

2人で笑う

駅の改札前で立ち止まって

「じゃあね」

「うん、夜勤頑張って」

「ありがと」

そう言って、梓は人混みの中に消えていった

その背中を見送りながら

「……ほんと、いい友達」

ぽつりと呟く

胸の中が、すごく温かかった