トップアイドルは白衣の天使に恋をする

次の日

現場に入ると、いつもより少し静かだった

まだ準備中の空気

スタッフがバタバタ動いてる中で――

目に入ったのは、林だけだった

機材の横で、何か確認してる

「……おはよ」

声をかけると、顔を上げる

「あ、おはようございます」

いつも通りのトーン

でも、どこか少しだけ固い

「紗凪ちゃんは?」

自然と名前が出る

一瞬、林の動きが止まった

「……あー」

少しだけ視線を逸らしてから、口を開く

「今回の件で、1週間後に会議入るみたいで」

「会議?」

「フライト資格の件、話し合われるらしいです」

――ドクン

一瞬、胸の奥が冷える

「それまで一ノ瀬さん有給になるらしいです」

淡々とした説明

「師長さんが、“今は無理するな”って」

「……そうか」

短く返す

それが一番正しい判断だとは分かってる

でも昨日の顔が頭をよぎる

一人で抱え込んでないか

また潰れそうになってないか

「……」

気づいたら、少し黙ってた

「……悔しいっすね」

ぽつりと、林が呟く

その声に視線を戻す

「一ノ瀬さんがあんな評価されるのも」

「現場に立てないのも」

拳が、ぎゅっと握られてる

「……ありえないっす」

低い声

強く言い切る

そのまま少し間を置いて――

「だって、うちの病院の圧倒的なエースですよ?」

顔を上げて、まっすぐ言う

「一ノ瀬さんのフライト回数なんて、全国でも多分3本の指入るレベルっすから」

「……そんなに?」

思わず聞き返す

正直、そこまでとは思ってなかった

「はい」

即答

「現場の対応力も判断も、正直別格です」

迷いのない言い方

「だから余計におかしいんすよ」

少しだけ悔しそうに歯を噛む

「そんな人が、あんなミスするわけない」

「……」

その言葉、全部同意だった

あいつのあの動き、あの判断力見てて

そんな初歩的なミスするとは思えない

「……だよな」

自然と口から出る

「絶対、なんかおかしいんすよ」

林が少しだけ顔を上げる

「一ノ瀬さん、あんなミスする人じゃない」

「……分かってる」

短く返す

俺も同じこと思ってる

「……」

少しだけ沈黙が落ちる

その空気の中で、ふと思い出す

昨日のこと

屋上で、あいつを追いかけようとした時

林に止められた

「……昨日さ」

ぽつりと口を開く

「きつい言い方して悪かった」

林が一瞬だけ目を見開く

「え?」

「お前が行くって言ったのに、俺無視して行った」

あの時は、止まる気なかった

でも

こいつなりに、ちゃんと考えてたのも分かる

「……あー」

林が少しだけ苦笑する

「いや、全然いいですよ」

軽く首を振る

「正直、俺が行っても何もできなかったかもなんで」

少しだけ笑う

その笑い方が、どこか悔しそうで

でも、ちゃんと受け入れてる感じで

「……」

いいやつじゃん

素直にそう思った

ただの明るいやつじゃない

ちゃんと中身ある

「……ありがと」

小さくだけ言うと、林は少し驚いた顔してから笑った

「なんすか急に」

「別に」

軽く流す

でも、少しだけ空気が柔らかくなる