トップアイドルは白衣の天使に恋をする

しばらくの間、言葉もなく

ただ静かな時間が流れていた

でも、不思議と気まずさはなくて

むしろ、このまま止まってほしいと思うくらいだった

「……ねぇ」

ふいに、陽貴くんが口を開く

その声に、少しだけ緊張が混じっている気がした

「紗凪ちゃん」

名前を呼ばれて、顔を上げる

さっきまでと違う

いつもより、真っ直ぐで、逃げ場のない目

「……なに?」

小さく返すと、ほんの一瞬だけ視線が揺れて――

すぐに、戻る

「俺の彼女になって」

――一瞬、時間が止まった

言葉の意味を、頭の中でゆっくりなぞる

…?

彼女

……私が?

「……え」

やっと出た声は、それだけだった

冗談っぽさは、ひとつもない

いつもの軽さもない

ただ、まっすぐで

逃げ道をくれない告白

「ちゃんと考えて」

低く、落ち着いた声

「遊びじゃない」

はっきりと言い切られる

心臓が、うるさいくらいに鳴っている

さっきの気持ちが、胸の中で大きくなる

…どうしよう

嬉しい

すごく

でも

少しだけ怖い

相手は人気アイドルで、私はただの看護師

住む世界が違う

色んなことが頭をよぎる

「……私なんかじゃ…」

気づいたら、そんな言葉が出ていた

すると、少しだけ眉をひそめる

「それ、どういう意味」

少しだけ不満そうな顔

「いや……だって」

言葉に詰まる

でも

ちゃんと伝えなきゃ、と思う

「陽貴くんは……すごい人だし」

「紗凪ちゃんは?」

被せるように聞かれる

「……普通の看護師」

そう答えた瞬間

「は?」

少しだけ強い声

びくっとする

「どこが普通」

真っ直ぐ見られる

「命背負って現場立ってるやつが“普通”なわけないだろ」

その言葉に、息が止まる

「今日のことだって」

少しだけトーンが落ちる

「逃げずに戻ろうとしてたじゃん」

「……」

「そういうとこ、ちゃんと見てる」

優しく、でも確信を持った言い方

胸が、じんわりと熱くなる

一歩、距離が近づく

「俺は紗凪ちゃんがいい」

その一言で迷っていたものが、すっと消えた

……あぁ

もう、答えは決まってる


目を閉じて、深呼吸する

自分の気持ちを、ちゃんと確かめる

さっき気づいたばかりの感情

でも、それはもうはっきりしてる

好き

この人のことが

「……陽貴くん」

ゆっくり目を開けて、名前を呼ぶ

「うん」

まっすぐな視線

逃げない目

「私でよければ……」

少しだけ声が震える

でも

ちゃんと伝えたい

「……よろしくお願いします」

そう言った瞬間

ふっと、空気が緩む

「……やっと」

小さく呟く声

そのまま、ぐっと引き寄せられる

「っ……」

さっきよりも、少しだけ強い抱きしめ方

でも嫌じゃない

むしろ、安心する

「逃げんなよ、もう」

耳元で、少しだけ笑った声

「……逃げない」

小さく返す

今度は、ちゃんと自分からその腕に触れる

さっきまでとは違う意味で、ドキドキしながら

でも

不思議と怖くはなかった